研究課題/領域番号 |
23KJ1009
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分43060:システムゲノム科学関連
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
伊藤 冬馬 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,600千円 (直接経費: 1,600千円)
2025年度: 400千円 (直接経費: 400千円)
2024年度: 400千円 (直接経費: 400千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
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キーワード | 分子ネットワーク / 進化シミュレーション / 力学系 / ネットワーク構造 / 線形 / 非線形 / ダイナミクス / システム同定 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞の分子ネットワークは外部の刺激を認識し適切な応答をとる。その中でも、広い入出力と狭い中間層を持つBowtie構造というものは、多様な入力を判別し一様な出力に変換する機能を担う。しかし細胞分化や増殖に関わるMAPK経路は、Bowtie構造であるが多様な出力を示す。この機構は近年分かってきたが、経路構造と機能の相違を生み出した進化原理は謎である。こうした複数の仕組みが合わさり成立する形質は、漸近進化では説明が難しく「複雑な形質の進化」として注目される。この議論は従来、形態を対象に行われてきたが、本研究はシステムとしての基本単位である分子ネットワークにおいて、この進化学上の問題を議論する。
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研究実績の概要 |
本研究は活性動態に情報を符号化するBowtie構造の進化原理の議論を通して、分子ネットワーク上で複合的情報処理がどのように出現するのかの解明を目指している。本年度は活性動態への情報符号化を示さない静的なBowtie構造がどのように出現するのかを理論研究により調べた。 過去の研究では、多層の線形フィードフォワードネットワークを特定の入出力関係を満たすように進化シミュレーションで進化させ、入出力関係がランク落ち行列で表現される時にBowtie構造が出現する、という進化上のゴールに依存した形でBowtie構造が出現することが示されてきた。我々は、進化シミュレーション及び力学系解析から、進化の初期段階において分子間相互作用に該当するリンク強度が弱い時に、Bowtie構造は必然的に出現することを明らかにした。また同様の原理により、リンク強度が強い状態であっても、ネットワークの入出力数の増大により、Bowtie構造が出現することを明らかにした。これは、初期進化や大きな環境変動の後において、Bowtie構造の必然的出現を示唆し、現存生物におけるBowtie構造の偏在性を説明しうると考えている。さらに非線形ネットワークでも初期値依存的なBowtie構造の進化を確認した。これらの成果をまとめ、国際査読誌への投稿を行なった。 また、「分子ネットワークの情報処理」の進化を扱う上で、情報処理を応答関数として扱うことで、見通しが良くなると考えられる。このことから、入出力データからシステム(応答関数)の推定を行う所謂システム同定の手法開発にも取りくんだ。活性動態に情報を符号化するBowtie構造のように、入力に応じて非線形に応答を変化させるシステムを同定することは困難が生じる。これに対し、時不変係数を時変形数が修飾する動的応答関数の形式および推定手法を提案し、複数の学会で発表を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は静的なBowtie構造の進化原理を明らかにした。これはBowtie構造という単純な経路にどのように複雑な情報が符号化されていくのかを考える上で土台となるものである。 また非線形システムを応答関数として表現する手法も開発することができた。これは分子ネットワークの情報処理という複雑な現象を扱いやすくする上で重要な進展であったと考える。以上の理由から、本研究は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き「活性動態に情報を符号化するBowtie構造の進化過程及び進化原理の解明」を目的とした研究に取り組む。1つの構造が複数のパターンを示すというようなPolycomputingの概念とも絡めながら議論を発展させていく。
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