研究課題/領域番号 |
23KJ1016
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分46020:神経形態学関連
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
伊勢 正崇 新潟大学, 医歯学総合研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
2025年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | ミクログリア / オリゴデンドロサイト / 脱髄疾患 |
研究開始時の研究の概要 |
日本の高齢社会において増加していく神経変性疾患は重要な健康問題であり、その治療戦略及び予防は喫迫した課題である。我々は成体マウスの神経系において、成熟オリゴデンドロサイト特異的に特定の遺伝子を欠損することで、脱髄病態を示唆する結果が得られた。本研究の目的は、そのマウスを用いて脱髄病態を解明すると同時に、炎症細胞に着目することで脱髄病態の制御につながる戦略を明らかにする。
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研究実績の概要 |
今回作成した成熟オリゴデンドロサイト特異的に遺伝子を欠損させたマウスにおいて、解析個体数を増やすことで体重変化や四肢麻痺の有無の他に、オリゴデンドロサイトや神経細胞の細胞死、ミクログリアの異常集積、ミエリン関連タンパクの脱落、アストロサイトの活性化等の再現性を免疫染色により確認した。それぞれの結果の定量化についても、陽性細胞数の差、qPCR、ウエスタンブロットにより評価を行い、統計学的に有意であった。実際にルクソールファストブルー染色や電子顕微鏡で脊髄を観察したところ、ミエリン等を貪食しているミクログリア像の他に、無髄軸索の割合が遺伝子を欠損させたマウスで増加していた。 ミクログリアの異常集積に関連して、遺伝子を欠損させたマウスでミクログリアの集積部位と一致して炎症性サイトカインが有意に上昇していたことから、ミクログリアの性質の変化を確認するために脊髄のバルクRNA-seq解析を行った。その結果、神経疾患等の病的状態におけるミクログリアにおいて上昇する遺伝(Disease-associated microglia:DAM)の発現が遺伝子を欠損させたマウスで有意に上昇しており、時間経過ごとに炎症が高度になるに伴い、その発現量が上昇していることが確認できた。一方で、生理的な状態で発現している遺伝子はDAMの発現に伴い、免疫染色で発現が低下していた。また、オリゴデンドロサイトの細胞死様式に関して、p53シグナル標的遺伝子群の発現が有意に上昇していたことからアポトーシスが亢進している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脱髄モデルマウスとしての確立のために、さらにマウスの解析個体数を増やして、オリゴデンドロサイトや神経細胞の細胞死等の脱髄病態に認められる所見の再現性を免疫染色等で確認することができた。また、定量的評価という観点においてもqPCR、ウエスタンブロット等を用いることで、統計学的にも有意差を示すことができた。電子顕微鏡観察では、有髄軸索の割合が減少等といった脱髄病態で観察できる像を認めた。 脱髄病態における炎症細胞の動態変化については、in situ ハイブリダイゼーションから炎症性サイトカインがミクログリアから放出されていることが示唆された。脊髄のバルクRNA-seq解析を行ったところ、ミクログリアはその時の中枢神経環境に応じて性質を変化させることが明らかになり、脱髄病態の制御を検討していく上で遺伝子発現量変化が大きいミクログリアに着目していくことが有用であることが示唆された。 上記の研究成果が得られており、本研究は当初の計画通り概ね順調に遂行できている。
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今後の研究の推進方策 |
DAMは病態や中枢神経環境に応じて性質が変化するため、今後はそれぞれの遺伝子発現上昇を認めるミクログリアを機能(障害的・保護的)に応じて分類して、どの遺伝子を発現しているDAMが作成した脱髄モデルマウスで高値になっているかを確認する。さらに、脱髄進行に伴い、経時的な脊髄の脱髄組織のバルクRNA-seqの結果を比較することで、病的環境下でどのような他の性質を持つミクログリアが脱髄モデルマウスで遺伝子発現変化を起こしているかを検討する。将来的にはミクログリアのシングルセルRNA-seqを行うことで、対象マウスと作成した脱髄モデルマウスでのミクログリアのsub-populationの分布の違い及び各populationにおける発現変動遺伝子を評価する。そして擬時系列解析により、各populationにおける分化経路を推定し、細胞間相互作用(リガンド-受容体相互作用等)も明らかにすることで、組織保護的ミクログリアへと遷移する契機となる作用を解明する。それにより、外的な作用で保護的ミクログリアにミクログリアを変化させる方法を解明することで、脱髄疾患を含む神経変性疾患の病態改善・予防に繋げていく。
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