研究課題/領域番号 |
23KJ1042
|
研究種目 |
特別研究員奨励費
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分35010:高分子化学関連
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
千葉 耀太 信州大学, 総合医理工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
2025年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
|
キーワード | 分解性ビニルポリマー / ケミカルリサイクル / 解重合 / 逆アルドール反応 / PMMA |
研究開始時の研究の概要 |
プラスチックの分解は,レジスト,接着・剥離をはじめ,化学的リサイクルによる資源循環にも応用が期待される基幹技術です.その中で,ビニルポリマーは安定な炭素骨格のみで主鎖が構成されるため,温和な条件での分解が困難とされてきました. 本研究では,ビニルポリマーの分解における従来の発想とは異なるメカニズム (逆走型解重合) によって分解可能なビニルポリマーを設計し,任意の環境・場所で簡単に分解可能なビニルポリマーの実現を目指します.開始剤とモノマーの選択によって戦略的に分子骨格を合成し,それぞれ「汎用性」「速さ」を長所とする2種類の逆走型解重合を開拓します.
|
研究実績の概要 |
本研究では,ビニルポリマーの開始末端構造の制御によって連鎖的分解の開始点となる鍵構造を導入することで,ビニルポリマーへ分解性を賦与するための二種の連鎖的分解機構を開発する計画であった.具体的には「開始末端からの連鎖的な逆アルドール反応によって分解を誘起する設計」「環状側基の開環による立体反発の増大を駆動力とし,アニオン性の解重合を誘起する設計」の二種である. 前者の計画では,分解開始点を開始末端へ導入した高分子の合成を行い,塩基性条件下での分解性を調査した.その結果,分解開始点がひとつの末端のみに限定される当初の設計では,効率的な分解を誘起できないことがわかった.この問題を解決するため,「主鎖中の複数の分解点から分子鎖を切断し,生成した断片の末端から連鎖的な逆アルドール反応による分解を誘起する設計」へ方針を転換した.これに従って得られた高分子を塩基処理したところ,分子量の低下が確認された.現在,分解生成物の同定を実施している. 後者の計画では,制御ラジカル重合によって開始末端へ鍵構造を導入する予定であったが,対象とするモノマーの特殊な重合性を原因として,重合の制御が困難であることが明らかになった.今後はモノマーを変更して重合の検討を継続する. 上記の検討の過程で,ラジカル機構による連鎖的分解を誘起することで原料を再生する高分子の設計を着想した.これに従い,poly(methyl methacrylate) (PMMA) 中の繰り返し単位の一部をラジカル開裂しやすい構造に置換したポリマーを合成した.通常,PMMAの解重合によるモノマー再生には400 ℃の過酷な加熱を必要とするが,得られた高分子は220 ℃程度で解重合を生じ,モノマーであるmethyl methacrylate (MMA) を与えた.すなわち,温和な条件でPMMAのケミカルリサイクルを可能にする手法を開発した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画に含まれる2つの分解性高分子の設計に関して,上記で述べた通り,種々の検討から各案において修正を要することが明らかとなった.この知見に従い,「開始末端からの連鎖的な逆アルドール反応によって分解を誘起する設計」においては「主鎖中の複数の分解点から分子鎖を切断し,生成した断片の末端から連鎖的な逆アルドール反応による分解を誘起する設計」へと方針を変更し,再設計した高分子の合成を完了した.この高分子は実際に塩基性条件下で分子量の低下を示したことから,新規分解性ビニルポリマーの合成を達成した.本計画では,高分子の分解を介して低分子成分であるピルビン酸誘導体を得ることを目的の一部としており,これに関する検討を実施するための素地が整ったといえる.このことから,計画は順調に推移していると判断している.今後は分解生成物の構造同定と分解条件の検討を実施する必要がある. また,検討の過程で発見した「PMMAのケミカルリサイクルを容易にする設計」は,当初計画に含まれる内容ではないものの「ビニルポリマーの新規な分解・ケミカルリサイクル法を開発する」という点において,当初計画の目的と一致する.このことから,この発見も,本研究に寄与する重要な進捗であると捉えている.
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度の検討において得られた知見を基に分解性高分子の再設計を行い,その合成と分解を目指す. 「主鎖中の複数の分解点から分子鎖を切断し,生成した断片の末端から連鎖的な逆アルドール反応による分解を誘起する設計」においては,得られた高分子を分解することで生成した低分子の構造解析を実施する.生成が期待されるピルビン酸誘導体は,塩基の種類や温度によって二量化などの副反応を生じることが知られている.構造解析の結果を踏まえて,分解に適した塩基・溶媒・温度を検討し,ピルビン酸誘導体を効率的に得るための条件を探索する. 「環状側基の開環による立体反発の増大を駆動力とし,アニオン性の解重合を誘起する設計」においては,モノマーを3-methylene phthalideから変更し,重合の検討を継続する.種々の検討の結果から,3-methylene phthalideの成長ラジカルは広い共役構造によって安定化を受けており,この安定性が重合の制御を困難にしていると考えている.当初計画で述べた機構によって高分子の分解を可能にすると期待されるモノマー群のうち,より低いラジカル安定性を示すと考えられるモノマーについて検討を行う. 研究全体としては,すでに分解性の高分子が得られている前者の計画に注力し,早期に目的の実現を目指す.
|