研究課題/領域番号 |
23KJ1047
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分42020:獣医学関連
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
澤村 友哉 岐阜大学, 共同獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
2025年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 大腸運動 / 脊髄排便中枢 / 下行性神経 / 視床下部A11領域 / 延髄縫線核 / パーキンソン病 / GABA |
研究開始時の研究の概要 |
脳や脊髄といった中枢神経系が排便にどのように関与しているのかは未だ明らかになっていない。過敏性腸症候群やうつ病、パーキンソン病等の中枢神経系が関与する疾患では下痢や便秘といった排便異常が生じることから、中枢神経系の関与が大きいと考えられる。そこで本研究では、疾患に伴う排便異常を解明するために、「正常動物での中枢神経系による大腸運動制御メカニズムの解明」と、「そのメカニズムの変調が疾患による排便異常にどのように関与するのかを解明すること」を目的とする。
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研究実績の概要 |
大腸運動は消化管壁内に存在する内在神経系による調節が主体となることから、中枢神経系による大腸運動制御は未解明であった。しかし、ストレスが関連する過敏性腸症候群や中枢性疾患のうつ病やパーキンソン病における排便異常には消化管を直接標的とした治療が効果的ではないため、中枢神経系の関与が大きいと考えられる。本研究では、脳から脊髄へ投射する下行性神経の骨盤神経を介した大腸運動制御への作用、および排便異常に対する下行性神経の影響を明らかにすることを目的とする。この目的の達成には、1)正常な状態で大腸運動を制御する下行性神経を解明する、2)中枢性疾患における排便異常に下行性神経の異常が関連するのか解明することが必要であると考えている。 本研究ではまず、下行性神経が大腸運動を制御していることを明らかにした。脳から脊髄へ投射している視床下部A11領域と延髄縫線核の下行性神経をアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いた二重感染法により人工受容体を発現させることで特異的に操作した。A11領域または縫線核を活性化することで大腸運動が亢進し、これらの脳領域を抑制することで大腸内腔への侵害刺激による大腸運動の亢進やストレス誘発性の排便行動が抑制されることを突き止めた。 次に、便秘を呈することが知られているパーキンソン病(PD)モデルラットでの検討を実施した。片側黒質ドパミン神経を破壊したPDラットでは、大腸内腔への侵害刺激による大腸運動応答が生じなかった。脊髄排便中枢において大腸運動を抑制するGABAに着目し、脊髄にGABAA受容体阻害薬を前投与すると侵害刺激による大腸運動応答が生じるようになった。次に、下行性神経の関与について検討するために脊髄にモノアミン受容体阻害薬を前投与する実験を実施した結果、下行性セロトニン神経による大腸運動促進作用が低下していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一段階として、正常な状態で下行性神経が大腸運動を制御していることを明らかにした。脳から脊髄へ投射している視床下部A11領域と延髄縫線核の下行性神経をAAVを用いた二重感染法により特異的に操作した。その結果、A11領域および縫線核の下行性神経が大腸運動およびストレス誘発性の排便に関与することが明らかになった。正常な個体におけるこれらの結果は、次の段階である疾患に伴う排便異常への下行性神経の関与を解明する上で重要である。 第二段階となる中枢性疾患における排便異常に下行性神経の異常が関連するのか解明するために、本年度は便秘を呈するパーキンソン病(PD)のモデルラットを用いて検討を行った。その結果、片側黒質ドパミン神経を破壊したPDラットでは脊髄においてGABAによる大腸運動の抑制が増強し、セロトニンによる大腸運動の促進が減弱することが明らかになった。この結果は、PDラットでは下行性神経の構成変化が生じ、排便異常に寄与している可能性が示唆された。PDラットにおける実験成果は、本研究の根幹となっている下行性神経の構成変化が排便異常に寄与するという考えを支持する成果となった。 上述の研究内容はそれぞれ英語論文としてまとめ、American Journal of Physiology Gastrointestinal and Liver Physiology誌にて公表している。このような成果から、「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、疾患に伴う中枢性大腸運動制御の異常を解明するために、新たな疾患モデルとなる痛覚過敏モデルを用いた大腸運動の検討が主となる。また、PDラットを用いた検討によって明らかとなったGABAの関与について検討する予定である。 痛覚過敏モデルは、後肢にフロイントの完全アジュバントを投与した炎症誘発性疼痛モデルラットを活用する。痛覚過敏は後肢および腹部への機械刺激に対する逃避行動やvisceromotor responseを記録して確認する。また、脊髄排便中枢へ逆行性トレーサーを投与し、神経活性化マーカーであるc-Fosの免疫組織染色を実施することで、痛覚過敏モデルにおいて変化し、中枢性大腸運動制御に関与する可能性がある神経核の特定を試みる。現在、この痛覚過敏モデルラットにおいて中枢性大腸運動制御が変化する現象を捉えつつある。 GABAの大腸運動制御への関与の検討にはGABA神経にCreリコンビナーゼを発現するラットを用いる予定である。脊髄に逆行性のAAVを投与することで脊髄排便中枢に関与する可能性のあるGABA神経核の特定を試みる。さらに、人工受容体を導入し神経活動を操作することで脊髄排便中枢において大腸運動を抑制するGABA神経核の特定を試みる。大腸運動制御に関与するGABA神経核が特定された場合は、PDラットにおけるGABA神経核の操作により慢性便秘が改善されるか評価する。
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