研究課題
特別研究員奨励費
糖鎖は核酸、タンパク質に次ぐ生体内の三大分子の一つである。細胞表面の糖鎖構造は、正常細胞ががん化すると大きく変化し、特に顕著な変化としてシアル酸修飾の増加が知られている。シアル酸修飾の増大とがんの悪性形質の関係性を明らかにすることは新たな治療法開発に重要である。本研究ではオリゴシアル酸転移酵素ST8Sia6によるがんの悪性形質獲得機構をトランスクリプトーム、グリコーム解析およびリン酸化パスウェイ解析を通して分子レベルで解明することを目指している。
本研究ではオリゴシアル酸転移酵素ST8Sia6に着目し、ST8Sia6の酵素学的、生物学的性質を解析し、オリゴシアル酸構造を介したがんの悪性形質獲得機構の解明を行う事を目的とした。(1)悪性形質獲得に関与するシグナル伝達経路同定:ST8Sia6を過剰発現させたB16メラノーマ細胞を用いてがん形質を解析した。酵素発現は増殖能および足場非依存性を促進したが、糖鎖末端シアル酸の切断処理およびシアル酸添加実験の結果、増殖能はオリゴシアル酸依存的であり、足場非依存性増殖能は非依存的であった。そこで酵素の基質結合部位あるいは活性部位に点変異を挿入した変異体発現細胞株を作製し、解析した。その結果、酵素の基質結合部位が糖鎖結合レクチンとして悪性化に寄与している可能性を示した。トランスクリプトーム解析とリン酸化解析から、ST8Sia6発現によるがん悪性化とMAPKシグナル伝達との関連性を明らかにした。(2)酵素局在による悪性化への影響解析:シアル酸転移酵素はゴルジ体局在とされていたが、ST8Sia6は主に小胞体にも局在することを以前証明した。ゴルジ体局在型変異体を用いて悪性形質評価を行い、ST8Sia6の局在の違いは悪性形質に関与しないことを示した。局在性から酵素が分泌されている可能性を考え、超遠心法によりST8Sia6は細胞外でエクソソーム上および外ともに局在することを明らかにした。ST8Sia6発現細胞の培養上清はケモタキシス活性を示したが、ケモカインの分泌増加が関連している可能性を示した。(3)酵素基質担体・相互作用分子の同定:ST8Sia6が生合成するオリゴシアル酸の担体および相互作用分子を同定するためにST8Sia6発現細胞の膜画分を超遠心法で抽出した。その膜画分に、オリゴシアル酸の認識抗体を用いて免疫沈降法とLC/MS解析を行い、基質担体および相互作用分子の候補分子を示した。
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Journal of Biological Chemistry
巻: 300 号: 1 ページ: 105564-105564
10.1016/j.jbc.2023.105564