研究課題/領域番号 |
23KJ1085
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分33010:構造有機化学および物理有機化学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
河野 英也 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | ナノベルト / シクロパラフェニレン / 開殻性 / サイズ依存的性質 / 環電流 / ハスモンヨトウガ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は筒状構造をもつインデノフルオレン(IF)拡張体であるインデノフルオレンベルト(IFB)の創製と機能開拓である。5員環と6員環が交互に縮環した構造をもつIF拡張体は、その開殻性から次世代材料として期待されているものの、その合成は未だ実現されていない。最近、IFBの開殻性および芳香族性に着目した理論研究が報告され、その特異な開殻性が注目を集めている。メチレン架橋シクロパラフェニレン(MCPP)の合成を達成しており、これを酸化することで短段階でIFBに誘導できると想定される。IFBの合成により開殻性分子の化学を進展させるだけでなく、機能性分子の開発における新たな設計指針を示すことを目指す。
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研究実績の概要 |
ナノベルトは芳香環が筒状に縮環した分子群である。2017年に、当研究室が世界初のナノベルトである(6,6)CNBを合成して以降、さまざまなナノベルトの合成が相次いで報告されている。一方で、インデノフルオレン(IF)拡張体であるインデノフルオレンベルト(IFB)は5員環と6員環が交互に縮環した構造をもつナノベルトであり、その開殻性から次世代材料として期待されているものの、その合成は未だ実現されていない。これまでにIFBの開殻性および芳香族性に着目した理論研究が報告され、その特異な性質が注目を集めている。IFBを合成するにあたり、申請者の研究室で初めて合成されたナノベルトであるメチレン架橋シクロパラフェニレン(MCPP)を酸化することにより短段階でIFBに誘導できると想定される。本研究の目的はMCPPの酸化反応によるIFBの合成と次世代材料としての応用である。 これまでにIFBの前駆体となるMCPPの基盤を拡大するために、サイズの大きなMCPPとして8個のベンゼン環をもつ[8]MCPPおよび10個のベンゼン環をもつ[10]MCPPを新たに合成し、それらの性質評価を行った。これらのMCPPが[6]MCPPがもたない蛍光を有していることや、国際共同研究により、MCPPの周りを流れるベルト電流の大きさがサイズの増大に伴って指数関数的に減少することを実験的、および理論的に明らかにした。 また、前駆体であるMCPPの酸化条件を種々検討しIFBの合成を模索する中で、農業害虫として知られるハスモンヨトウ幼虫の代謝を利用した酸化反応を検討した。MCPPを経口投与したところ、予想外にもMCPPに対して一酸素が挿入された[6]MCPP-oxyleneが選択的に生成することが分かった。また、[6]MCPP-oxyleneの性質解明をしたほか、共同研究により反応機構を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに[6]MCPPのメチレン炭素に対して芳香環を挿入することができることを明らかにした。これにより、[6]MCPPを酸化し、[6]IFBに誘導した際に[6]IFBのラジカルが保護され、安定性が向上すると期待される。一方で、[6]MCPPの酸化反応を種々検討しIFBの合成を試みたものの、現在までにIFBへの誘導は達成されていない。 酸化反応を探索する中で、農業害虫として知られるハスモンヨトウ幼虫の餌に[6]MCPPを混和させて経口投与することで酸化反応が進行し、代謝物を回収、精製することで[6]MCPP-oxyleneというMCPPに対して一酸素が挿入された全く予想外の生成物が選択的に得られることを明らかにした。また、共同研究の実施により、反応に関与する酵素を特定したほか、反応のメカニズムをも解明した。本結果は人工合成したナノカーボンを、昆虫の体内を用いて変換する初めての試みであり、昆虫の体内を用いた合成反応という、これまでにない全く新しい分野を切り開いたと言える。 また、サイズの異なる新たなMCPPを合成し、そのサイズ依存的な性質を解明した。新たなMCPPが蛍光をもつことを明らかにしたほか、サイズが増大するにつれて、ベルトの周りを流れる事が知られている環電流が指数関数的に減少することが実験的に確かめられた。サイズの異なるMCPPはサイズの異なるIFBに誘導できると想定され、サイズの異なるIFBは異なる性質をもつと考えられることから、新たなMCPPの合成は開殻性ナノベルトへの足掛かりを拡大したといえる。 以上より、IFBの合成自体は未踏であるものの、予想外の酸化反応発見と、IFBのMCPPプラットフォーム拡大を実現したことから、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
未知のナノベルトである開殻性ナノベルトのIFBの合成に向けて、[6]MCPPの酸化反応条件の検討を継続して行う。酸化条件の確立後、合成されたナノベルトの物理化学的性質を詳細に解析し、その応用可能性を探る。具体的には、NLO(非線形光学)材料としての利用、ホスト-ゲスト相互作用の検証、そして多孔性材料への応用を検討する。 また、これまでに合成したMCPPは偶数個のベンゼン環からなるものに限られていたため、奇数個のベンゼン環を含む新たなMCPPの合成を計画している。これにより、異なるサイズと構造をもつMCPPの基盤をさらに拡大し、そのサイズや対称性が光学的、磁気的性質に与える影響を解析する。MCPPの基盤の拡大は、アクセス可能なIFBの構造をさらに拡大することを意味する。これらのMCPPについても酸化反応の検討を行い、IFBに誘導する。 さらに、得られた酸化物の詳細な性質解析によって、そのサイズに依存した性質や、これらがどのような応用分野で有効であるかを明らかにし、それに基づいて新たな研究テーマや融合研究を発展させる。この計画を進行させることで、ナノベルトの応用に向けた新たな可能性を拓くことが期待される。これらの研究活動は、未来の材料科学の発展に寄与するだけでなく、新しい科学的課題に対する理解を深める手助けとなる。 加えて、農業害虫を利用した生物学的酸化反応のさらなる解明と応用も計画している。このアプローチは、伝統的な化学合成法に代わる環境に優しい代替手法を提供する可能性があり、ユニークな反応メカニズムを基に、新たな合成経路の開発を目指す。
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