研究課題/領域番号 |
23KJ1144
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分21060:電子デバイスおよび電子機器関連
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
井出 智也 豊橋技術科学大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
中途終了 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | CMOS / 半導体デバイス / イメージセンサ / 光センサ / スペクトル検出 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,光学フィルタを必要とせずに光の強度および波長情報を同時に取得可能なCMOSイメージセンサおよびその評価システムを構築する.このイメージングシステムを用いて生体組織および細胞集団の2次元的な挙動を解明し,病気のメカニズムに由来した治療分野への貢献を目指す.デバイスおよびプロセスシミュレーションを基に設計を行い,本学のLSI工場にて製作および評価を行う.製作したイメージセンサからマイコンを用いて信号を読み出し,2次元の動画情報として光の波長と強度を表示する.生体組織や細胞集団からの複数種類の蛍光を同時に観測可能な本システムが病理解明に向けた新たなツールとしてその妥当性を評価する.
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研究実績の概要 |
本学のLSI工場にて製作したフィルタフリー波長イメージセンサを用いた波長イメージングシステムを構築し,複数種類の光を照射したときの強度と波長情報の可視化を実現した.共同研究先(産業医科大学微生物教室)と議論し,実際の病原細菌から放出されるターゲットとなる蛍光を基に要求仕様を明確にした上でセンサおよびシステム設計および製作を行った.製作したフィルタフリー波長イメージセンサからの電流を積分回路を用いて電圧信号として読み出すために,マイコン,A/Dコンバータ,オペアンプ等の電子部品をPCB上に実装し,波長イメージングシステムを構築した.LED光源を用いて複数波長(FWHM:20 nm)による特定の光の照射パターンに対して,センサから得られるデータを基にMATLABによる3次元グラフを用いて光強度と波長情報をイメージングし,その性能を評価した.画素アレイにおいて光を照射した範囲に対応する画素のみにおいて電流出力が得られ,それらの総和と比率から提案原理に基づいて空間的にムラのある光のスペクトルを光強度とスペクトルの重心波長の視点からイメージングすることに成功した.さらに光源だけでなく,細胞集団を模擬した蛍光ビーズやUV光によって特徴的な蛍光を放出する2種類のレジオネラ細菌を用いた応用実験も試験的に行い,各種が存在する領域をを識別し,それらの挙動についても経時変化(褪色)から動態の観察を実現した.以上より,製作したフィルタフリー波長イメージセンサと構築したイメージングシステムを組み合わせることで強度と波長情報の同時イメージングを実証した.さらに,本センサを用いて医工学応用を目指した実験も実施し,UV環境下における病原細菌の動態の解明を実証した.この結果で,2編の学術論文の投稿および2件の国内学会における成果報告を行い,現在1件の国際会議に採択され,6月に口頭発表の予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は研究計画書に提案したとおりのコンセプトで設計したデータを基に本学のLSI工場で2度の試作からイメージセンサとして動作することを実証している.さらに,本センサを使った応用的実証実験も試験的に実施し,細胞集団を模擬した蛍光ビーズや実際に培養した病原細菌のイメージングにも成功している.センサの設計においては,特別研究員としての研究期間よりも早い段階から活動を始め,センサから得られる出力電流が2つ存在することに着目し,それらが同時に取得できる回路とそのための読み出し方法を導入したデバイスの検証を終わらせた.特別研究員としての研究期間が始まってからは本学のLSI工場におけるデバイス製作から本格的に研究をスタートさせ,1度目の製作では,アレイ状に配置したセンサのイメージング動作の実証,2度目の製作ではさらに多画素化および微細化させ,博士後期課程2年時を終えるまでに7㎜角の範囲内で波長と光強度を同時に取得できるチップの製作まで終え,動作の実証まで到達している.また,製作したチップを動作させるマイコンを用いた評価装置もアップデートを加えつつ構築しており,製作したチップを実装して所望の動的な電圧制御によって簡便かつ迅速にチップを使うことができる状況にある.現在は,試験的に一度行った応用実験から得られたデータを基に病原細菌等のターゲットについてこれまでに得ることができていなかった現象を可視化しているかについて議論も積極的に行っている.したがって,当初予定していた研究計画に遅れることなく,むしろやや進んで実施しており,残りの博士後期課程3年次では製作したチップとその評価装置を使ってターゲットの空間的な光の波長と強度に関する情報を同時かつリアルタイムに観測し,その解析にも十分専念することができるため,今後予定している応用実験にむけた準備という視点からも研究はおおむね順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,これまでに提案した新しい動作原理を用いることで光のスペクトルの全体の強度と重心波長を同時に取得可能なイメージセンサを実現し,これらを用いてリアルタイムにターゲットの空間的な波長分布の取得を実証してきた.したがって,今後は本センサを用いて生体組織や病原体集団といったターゲットの動態を観測し,定量することに力を入れて行っていく予定である.直近では,レジオネラ感染症の主な原因とされているニューモフィラと呼ばれる種族が放出する蛍光を基に動態の解明からレジオネラ感染症の病理解明を目指す.また,本センサの同一の画素で同時に複数の波長を検出可能である特徴を生かし,同時に一定の領域に複数種類の菌を混在させたときのこれまで見ることができなかった各菌種同士の相互作用による動態も観察および解明する.これらの結果から菌種ごとの動態の観察ではなく,複数菌種が混在した実在環境下に近い状況で各菌本来の挙動を観測し,病原細菌学へ貢献可能なツールの一つとして妥当性を評価する. 本デバイスは複数の波長情報を空間的に取得可能なイメージセンサであり,応用先は病原細菌に限った話ではない.蛍光染色法では近年,複数部位を多重に染色しそれらを個別に観測して組織全体の解明する手法が用いられている.また,センサ上を高速に通過させ短時間の間に多量かつタ項目の定量を可能とするフローサイトメトリーも細胞計測分野で頻繁に使用されている.今後は,センサ上でダイナミックに変化するフローサイトメトリーや複数波長を同時に観測する必要がある多重蛍光染色された生体組織の観察へも適用していく予定である.これにともない,さらなるセンサのスペックアップ(感度,動作速度),多画素化,微細化について半導体製造工場を有する企業と連携して進めていく予定で,今月より打ち合わせを開始しており,外注製造の前には先方の工場の視察も予定している.
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