研究課題/領域番号 |
23KJ1174
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分38020:応用微生物学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鹿島 騰真 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | カラメル化糖 / 人工糖質 / 腸内細菌 / 機能探索 / 糖質代謝関連酵素 |
研究開始時の研究の概要 |
一部のヒト腸内・口腔内細菌はカラメルに含まれるオリゴ糖を分解する酵素を持っている。カラメルはショ糖の加熱により生じる数百種類の化合物で構成され、中には天然では珍しいものも存在する。よってヒトが文明を築く中で、カラメル化反応で生じる人工糖質が腸内・口腔内細菌叢に変化をもたらした可能性がある。本研究では微生物学とタンパク質科学の観点から腸内・口腔内細菌叢によるカラメル化糖の資化機構をin vitroで解明する。また、マウスや培養細胞を用いて宿主に与える変化をin vivoで明らかにする。これにより加工食品がヒトの健康に及ぼす影響の理解が深まり、健康志向にあわせた食品産業の発展に繋がると期待される。
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研究実績の概要 |
カラメル化糖は人類が砂糖を加熱調理することでできる、いわば人工糖質であり、天然には存在しないオリゴ糖を多数含んでいる。近年の研究により一部の腸内細菌がこのような人工糖質を糖源に増殖する可能性が見出された。本研究では、カラメル化糖に含まれる人工糖質に対する腸内細菌を始めとする微生物の生理反応、そしてその生理反応の分子機序の解明を目的とした。 本年度はまず、カラメル化糖に含まれる人工糖質を調製した。その過程で加熱温度、酵素および酵母による天然に存在する糖構造の分解について条件検討を行い、人工糖質の混合物を獲得した。続いて、別プロジェクトで開発中の遺伝子解析法を用いて人工糖質に対して資化能を持つ可能性を有する腸内細菌株を選定した。これらの菌株で生育試験を行ったが、いずれも増殖は確認できなかった。そこで、菌株選定の根拠となった遺伝子群をクローニングし、組み換えタンパク質として遺伝子産物を調製、機能探索を行った。様々な菌種から由来する複数種類のタンパク質で機能解析を行った結果、バクテロイデス属のタンパク質で推定していた人工糖質資化とは異なる新規の、主に真菌細胞壁糖鎖の構成糖に対する糖質分解活性を有していることが明らかになった。 腸内細菌株で本来の目論見と異なる結果が得られたため、研究対象を土壌菌株に広げ、遺伝子解析を行った。その結果、いくつかのパエニバシラス属にて人工糖質の分解に関連しうる遺伝子群が複数特定され、このことから土壌菌も人工糖質を資化する可能性が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
異動による実験環境の変化に伴い、予定していた実験手法を変更(自ら獲得した糞便サンプルを用いた菌叢解析ではなく、生物情報学的な手法による微生物株の選定)したものの、新規性の高い酵素群の発見に成功した。発見した酵素群は人工糖質以外の化合物を基質としている。しかし、既報のカラメル化糖含有オリゴ糖分解酵素の配列情報を基に特定したため、発見した酵素と既報のものには一定の分子系統学的な関連性があると考えられる。これは土壌菌においてもカラメル化糖含有人工糖質の資化に関連する遺伝群が特定されたこととある程度の分子系統学的な関連性があると考えられる。このことから本研究ではどのようにして微生物が人工糖質を分解できるようになったのかを解明できる可能性を見出せたため、おおむね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き腸内細菌、土壌菌の酵素群について機能解析を行う。真菌細胞壁糖鎖の構成糖に対して分解活性が見られたバクテロイデス由来の酵素については実際に真菌細胞壁糖鎖に対する活性を評価する。さらに、由来生物では当該酵素が近傍の遺伝子と共発現され、協調的に働く可能性が考えられる。今後の研究ではこれら近傍遺伝子の産物との協調的な働きをインビトロで再現することでバクテロイデスにおける糖代謝経路を明らかにする。特に予測から反応メカニズムが分からない酵素については構造解析を行う。加えて、バクテロイデスと真菌の共培養実験を通して双方の表現型の変化の観察も考えている。 パエニバシルス属由来の遺伝子産物についても同様に機能探索をする予定である。直近ではカラメル化糖含有糖質の他、カラメル化糖と同様にフルクトースで構成されたイヌリンやレバン、そしてその部分構造に対する分解活性を評価する。 これらを遂行することにより、ヒトが文明を築く中で腸内を始めとする環境微生物がどのように適応してきたのか、その分子基盤が明らかとなることが期待できる。
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