研究課題/領域番号 |
23KJ1230
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分90110:生体医工学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高田 裕司 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 膀胱炎 / せん断応力 / 上皮バリア機能 / 生体模倣システム / インピーダンス / 線維芽細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
糖尿病患者は膀胱炎を発症しやすく再発率も高い。治療や予防には糖尿病による膀胱炎発症メカニズムの解明が必要である。尿糖によるせん断応力増加が膀胱上皮バリアに悪影響を及ぼすことが示唆されているが、従来法では評価が困難である。生体模倣システム(MPS)は、微細加工技術で生体に近い環境を再現し、組織へのせん断応力の規定や電気的測定との統合が可能である。本研究では、膀胱上皮のMPSを開発してせん断応力による上皮バリア機能の動的変化をインピーダンス計測により評価し、膀胱炎とせん断応力の関係を明らかにすることを目指す。これにより、膀胱炎発症メカニズムの解明に貢献すると共に、将来の膀胱炎モデル開発へと繋げる。
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研究実績の概要 |
研究の目的は、糖尿病に起因した膀胱炎発症メカニズムの理解のため、尿糖によるせん断応力増加が上皮バリアに及ぼす影響を評価することである。そのためには重層化した膀胱上皮組織に、せん断応力を付与して上皮バリア機能のダイナミクスを評価可能なシステムを構築する必要がある。2023年度では、せん断応力を付与する前段階として、(1)上皮バリア機能を評価可能なシステムを構築してその妥当性を評価し、(2)重層化した膀胱上皮組織をシステム内で実現する計画であった。 (1)の計画では、せん断応力を付与可能なインピーダンス計測用デバイスを開発して、当該研究室で実績のある近位尿細管上皮細胞を用いて評価する予定であった。そこで、ポンプによる流量制御によりせん断応力が規定可能な直線流路および電極を有するマイクロ流体デバイス開発した。そして、デバイス内で近位尿細管上皮細胞を培養し、抗がん剤シスプラチンにより上皮バリア機能に障害を与えてインピーダンスを計測した。結果は、上皮バリア機能と対応してインピーダンスが変化した。この意義はインピーダンスによる上皮バリア機能のダイナミクスの評価が妥当であることを示したことにある。 (2)の計画では、重層化した膀胱上皮を実現してバリア機能を評価する予定であった。そこで、膀胱上皮細胞に加え、ヒト線維芽細胞を導入して共培養した。そして、免疫細胞染色によるタンパク発現解析および蛍光プローブの組織を介した透過量を計測する試験により上皮バリア機能を評価した。免疫染色では、重層化および各層に特異的なタンパク質(Uroplakin II、Uroplakin III、CK20、p63)の発現の局在を確認した。さらに、透過量試験では、蛍光プローブの透過量の減少を確認した。この意義は膀胱炎発症メカニズムにおいて重要な重層化した高いバリア機能を持つ膀胱上皮組織を確立したことを示したことにある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度では、せん断応力を付与する前段階として、(1)上皮バリア機能を評価可能なシステムを構築してその妥当性を評価し、(2)重層化した膀胱上皮組織をシステム内で実現する計画であった。 (1)の計画では、せん断応力を付与可能なデバイスを開発して、当該研究室で実績のある近位尿細管上皮細胞を用いて系を確立してインピーダンスを計測する予定であった。結果は、せん断応力を付与可能なデバイスを開発し、インピーダンスによる上皮バリア機能の妥当性を確認することができた。このように、(1)に関しては、予期しないことは起こらず計画を達成することができた。 (2)の計画では、iPS由来の膀胱上皮前駆細胞あるいは不死化膀胱上皮細胞とヒト線維芽細胞をデバイス内で共培養することで重層化した膀胱上皮を実現し、免疫細胞染色によりタンパク質の発現解析および重層化の確認、インピーダンス計測により上皮バリア機能を評価する予定であった。そこで、デバイス内で不死化膀胱上皮細胞に加えてヒト線維芽細胞を共培養して安定培養可能な条件を確立した。iPS由来の膀胱上皮前駆細胞は、共同研究先から提供を受ける予定であったが、安定して培養することが叶わず不死化細胞のみ使用した。免疫細胞染色および蛍光プローブの透過量試験による上皮バリア機能の評価を通じて、不死化細胞であっても重層化した膀胱上皮組織を実現できることを確認することができた。このように(2)に関しては、iPS由来の膀胱上皮前駆細胞が未使用であることやインピーダンス計測が未実施であることを除いては、計画を概ね達成することができた。 以上の区分とした理由は計画の通りおおむね順調に進展しているためである。また、(1)の成果は、国際学術誌へ投稿して、現在は査読への返答レターの回答を提出した段階である。さらに、(1、2)のどちらの成果も複数の国際会議、国内学会において発表した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度では、2023年度に未達であったインピーダンス計測を実施する。その後、デバイス内の膀胱上皮組織において糖尿病における尿の流れを再現して、尿糖によるせん断応力増加が上皮バリア機能に与える影響を評価する計画である。計画ではiPS由来の膀胱上皮前駆細胞を使用することを掲げていたが、予想に反して不死化膀胱上皮細胞であっても高いバリア機能を持つ重層化した膀胱上皮組織を実現できたため、今後の計画ではiPS由来の膀胱上皮前駆細胞は使用しない方策である。 膀胱上皮組織に対して糖尿病患者でみられる300 mg/dlグルコースの溶液とグルコースを含まない溶液をデバイスに接続したポンプにより送液し、膀胱上皮バリアのタンパク質の発現や組織の形態、バリア機能を比較する。流量は、グルコースを含まない溶液において、排尿時に加わるとされる3 dyne/cm2となる量に統一する。せん断応力は、粒子画像流速測定法(PIV)によりマイクロ流路内の流速を実測して算出する。免疫細胞染色法による膀胱上皮バリアタンパク質(Uroplakin等)の発現解析、透過電子顕微鏡による形態評価、インピーダンス計測によるバリア機能評価を実施する。これにより、尿糖によるせん断応力増加と上皮バリア崩壊の関係を明らかにする。 これらの評価を達成した後にせん断応力増加と上皮バリア機能に関連がないという結論に至る可能性がある。その場合は、マイクロアレイ解析を実施してグルコースの有無による遺伝子発現プロファイルを比較する。その差異から、膀胱炎を引き起こすメカニズムに関連する遺伝子を探索するという措置を取る。
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