研究課題/領域番号 |
23KJ1271
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分30020:光工学および光量子科学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
章 振亜 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | Antiferromagnet / Terahertz / Spin dynamics |
研究開始時の研究の概要 |
申請者は、強いテラヘルツパルスの磁場成分を独自に開発したコイル型の金属メタマテリアル共振器構造により増強し、絶縁性の反強磁性体試料のスピンを直接励起することにより超高速な磁化制御を目指してきた。一方で、近年絶縁体ではなくトポロジカル磁性体など金属磁性体において、異常ホール効果を有しスピン流による磁化変化がもたらすホール電圧が大きいことが実証され新たなスピンデバイス材料への応用が期待されている。このような新規金属磁性体の超高速磁化制御を目的とし、金属メタマテリアル共振器構造で増強されたテラヘルツ電場/磁場パルスにより巨大なスピン流の発生技術の開発を目指し研究を進める。
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研究実績の概要 |
近年、希土類フェライトに代表される絶縁性反強磁性体は、そのスピン集団運動モード(反強磁性共鳴)がテラヘルツ(THz)帯域に達することから、既存の強磁性体を材料とする磁気記録素子の動作速度を大きく上回り、テラヘルツ周波数帯で動作する漏れ磁場のない高速磁性材料として注目されている。本研究では独自に開発した金属メタマテリアル構造により増強したテラヘルツ磁場により、反強磁性体の非線形なスピン応答について研究する。今年度は、主にテラヘルツ周波数帯に磁気共鳴を持つ反強磁性体HoFeO3における非線形スピンダイナミクスを調べた。テラヘルツパルスによる非線形スピンダイナミクスを誘起するために、最初にニオブ酸リチウム結晶を用いたパルス面傾斜法を用いて強力なテラヘルツパルスを生成する光学系を構築した。最大のピーク電場振幅が 1 MV/cm に達するテラヘルツパルスの発生に成功した。自由空間を伝播するこのテラヘルツパルスの磁場成分は約 0.3 T である。サンプル内部において、さらに高い強度のテラヘルツ磁場パルスを発生させるために、新しい金属マイクロテラヘルツ共振器を設計した。実際に、世界最強のテラヘルツ磁場(1 テスラ以上)パルスをサンプル内部に発生させることにも成功した。実験的には、強力なテラヘルツ磁場パルスは、直径が約 数マイクロメートルの空間領域に制限される。この小さな微小領域におけるスピンダイナミクスを観測するために、空間的に局所的なファラデー回転を測定する顕微鏡システムを構築した。この強力なテラヘルツ磁場パルスを用いてHoFeO3中のスピンを励起し、巨大な磁化変化を引き起こし、スピン系の非線形現象の観測に成功した。また、スピン再配列相転移温度付近で反強磁性体に実験を適用し、超高速なスピンスイッチングの実現にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、強いテラヘルツパルスの磁場成分を独自に開発したコイル型の金属メタマテリアル共振器構造により増強し、絶縁性の反強磁性体試料のスピンを直接励起することにより超高速な磁化制御を目標としている。このために、テラヘルツ(THz)光の磁場成分を物質内部で増幅できる、アンテナ付きらせん型共振器(SAR)を開発してきた。入射されたテラヘルツ電場によって螺旋構造内に瞬間的な円環電流を発生させ、物質内部にピコ秒時間スケールのテラヘルツ磁場パルスを発生できる。発生させた強力な磁場パルスの時間波形を観測し絶対値を評価するために、磁気光学サンプリング法を構築した。実験では、テルビウム-ガリウム-ガーネット上にSARを作製し、そのファラデー回転測定によって、最大磁場強度が0.96 T に達することを実験的に確かめた。これらの金属共振器構造に関する研究成果は、Applied Physics Express誌において論文公表しており(Appl. Phys. Express 17, 022004 (2024))、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、反強磁性体HoFeO3結晶表面にコイル型の金属微細構造を設計および製作し、最大ピーク電場振幅1MV/cmに達するテラヘルツパルスを照射することにより、試料表面において数テスラに達するテラヘルツ磁場が生成することを確認した。これにより誘起される磁化変化を超高速磁気カー回転測定によって測定し、自発磁化に対してほぼ100%の磁化変化が生じることを明らかにした。さらに、これによるスピン歳差運動の非線形な応答として第三高調波の観測にも成功し、磁場とスピン共鳴励起が前例のないほど強いことを確認した。本研究では、これらの研究成果を発展させて、反強磁性体材料において超高速なスピンスイッチングの実現と物理的な機構についての理解を得る。また、新規磁性体材料に対して研究を進め、光パルス励起によるスピン流生成をテラヘルツ放射によって検出し、磁化ダイナミクスの精密な測定と理解の深化を目指す。
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