研究課題/領域番号 |
23KJ1273
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分10040:実験心理学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
NI NAN 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 認知トレーニング / ワーキングメモリ / 認知ルーティン |
研究開始時の研究の概要 |
私たちを取り囲む生物・社会環境に柔軟に適応するためには,様々な認知機能が必要となる。そのため,認知機能をトレーニングすることで環境に対する適応を高める試みが長年に亘って続けられてきた。しかし,最近の研究が認知トレーニングの効果が極めて限定的であることを示し,更に新たな理論により,トレーニングによる「負の効果」も予測される。 本研究では,認知トレーニングによる「負の効果」に焦点を当てて検討し,トレーニングによる認知機能の変化のメカニズムを解明し,新たな認知トレーニング理論の提案を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では,認知ルーティン理論に基づき,認知トレーニングによる「負の効果」に焦点を当てて検討し,新たな認知トレーニング理論を提案することを目的としている。 本年度には,認知トレーニングの一つであるワーキングメモリ・トレーニングに関する一連の研究を推進し,「負の効果」を実証実験で示し,その特徴と生起メカニズムについて検討を行ってきた。実施状況概要として以下3点が挙げられる。 1.修士課程から行った研究では,2段階のトレーニング法を用いて,ワーキングメモリ・トレーニングの非対称な「負の効果」を示した。この結果を報告した論文は,本年度に国際雑誌Memory & Cognitionに掲載された。空間位置逆順再生課題のトレーニングが,文字逆順再生課題のトレーニング効果を抑制するという負の転移をするが,トレーニングの順序を逆転させると,文字逆順再生課題は空間位置逆順再生課題に負の転移を起こさなかった。この非対称性は「負の効果」がルーティンの獲得過程において生じる可能性を示している。 2.正・負の転移効果の認知メカニズムを検討するため,2段階のトレーニングにおける認知方略の使用に焦点をあて,これまでの実験データの分析を行った。その結果,言語刺激の逆順再生課題と空間位置の逆順再生課題において使用される方略が異なることが明らかになり,負の転移効果は, 第2段階において不適切な方略を用いた結果であると推測される。 3.「負の効果」の生起メカニズムをより効率よく検討するために,トレーニング期間を短縮し,実験1と実験2を行い,「負の効果」の再現を試みた。2つのトレーニング段階をいずれも短縮した実験1では,負の転移が見られなかったが,後半のトレーニング段階だけを短縮した実験2では,まだ実施途中だが,先行研究と一貫した負の転移効果の傾向が見られている。なお,方略使用に関して,これまでの結果も再現されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度には,ワーキングメモリ・トレーニングによる負の転移効果を報告した論文が,国際雑誌に掲載された。実証実験で新しい現象を確立すると共に,トレーニングによって獲得されるルーティンが認知機能に与える影響の二面性(正負の効果の存在)を示したことは,本研究課題の大きな成果であると考えられる。また,認知方略の使用の観点から,これまでの実験調査データを再分析し,負の転移効果の生起メカニズムについて新たな知見が得られたと考えられる。この研究結果も国際学会においてポスター発表で報告された。さらに,新しいトレーニング実験の実施を通じて,正・負の転移効果にトレーニング期間が与える影響についての検討も行うことができた。 これらの状況を踏まえ,ワーキングメモリ・トレーニング研究について,本年度には最初に考えていたよりも豊富な情報が得られ,当初の研究計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度には,引き続き実証実験と研究発表を通じて研究スキルを高め,トレーニングの「負の効果」に関する理解を深めて,新たな認知トレーニング理論の構築と,経験による認知機能の変化に関する研究への展開に力を注ぎたい。 具体的には,まず,「研究実績の概要」の3点目に述べた実験に関して,2024年度の早い時期に実験2を完了する。実験1と実験2から得られたデータに関して,トレーニング期間および認知方略の使用に焦点を当てて,実験データを詳しく解析する。それらの要因がトレーニング成績に与える影響を検討し,正・負の転移効果の生起メカニズムの詳細について理論面での精緻化を行う。なお,実験1の分析結果を報告するポスターは既に採択され,2024年度に国際学会The 4th International Conference on Working Memoryにて発表する予定である。さらに,以上の2つの実験結果に基づいて,2024年度中に論文を執筆し,国際雑誌Journal of Cognitionに投稿する予定である。このように,実証実験による検討と学会・論文による成果発表を両立して今後の研究を推進していく予定である。 最後に,これまでの自身の研究を含めた先行研究の知見を踏まえて,博士論文を執筆し,特別研究員採用中に博士学位の取得を目指したいと考えている。
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