研究課題/領域番号 |
23KJ1286
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分17020:大気水圏科学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
青木 俊輔 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 沿岸降水 / 衛星観測 / レーダ / 日周期変化 / 線形理論 / 海陸風 |
研究開始時の研究の概要 |
沿岸域の降水は、海陸の地表面加熱差や海岸山脈の地形効果のような、海陸の境界領域に特有の因子により引き起こされている。近年、沿岸山岳域で起こる多量の降水が、全球の海陸水循環において重要な役割を果たしていると指摘されている。本研究では、気象数値モデルや長期間の衛星観測データを活用して、沿岸山岳域の降水メカニズムを決定する環境場の条件を明らかにするとともに、水循環に対して沿岸山岳域の降水メカニズムがどのように関わっているのかを、全球的な視点から明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究では、全球の海陸水循環において重要な役割を果たすとされる沿岸山岳域における降水メカニズムと大気環境場との関係について調査している。本年度は、特に多量の降水がもたらされる熱帯の沿岸域に着目し、長期間の衛星観測データおよび線形理論に基づく数値モデルを活用した解析を行った。 熱帯沿岸域における降水は太陽放射による地表面加熱を駆動源とした顕著な日周期変化を伴う。そこで、熱帯降雨観測衛星(TRMM)降雨レーダ(PR)による1998年から2014年までの長期観測データに対して、下層風の海岸線に直交する成分に基づいた分類を行うことで、以下のように熱帯全域にわたって共通した沿岸降水の気候学的な日周期変化特性を明らかにした。 1)背景風が弱い時には、降水量が強風時よりも振幅の大きい日周期変化を示し、沿岸海上で午前中、沿岸陸上で午後にピークを持つ。さらに,両ピークとも海岸線から遠ざかる方向へ時間とともに伝播し、海岸線を挟んで海陸対称な降水伝播パターンを形成する。 2)背景風が陸方向に強い時には、これまでの研究で言及されているように、継続的な降水が増加し、日周期変化の寄与が相対的に小さくなる。しかし、強風時であっても降水の日周期変化成分は無視できない程度存在している。また、弱風時と異なり、降水の伝播パターンは海岸線を挟んで海陸非対称となる。 このような降水伝播パターンの背景風依存性は、海陸風循環の線形理論に基づく数値モデル結果を援用することにより、背景風下での海陸加熱差により励起される重力波で説明可能であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は当初の計画通り、長期間の衛星観測データを用いた統計解析の結果と大気モデルの数値実験結果との比較を行うことで、沿岸降水のメカニズムについて調査した。衛星データ解析に当たっては、海岸線からの距離と下層風の海岸線に直交する成分に基づいて統計処理することで、衛星搭載レーダの観測サンプリングの課題を克服し、降水日周期変化の様相を定量的に表現することに成功した。さらに、海陸風循環の線形理論に基づく数値モデルとの比較を行うことで、衛星観測で判明した降水の様相を説明する物理的メカニズムを明らかにした。以上の成果についてまとめた論文をJournal of Climate誌にて公表しており、当初の計画よりも研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、沿岸山岳域における降水メカニズムと大気環境場との関係について調査する。特に、これまで本研究では大気重力波による線形的な応答を記述するモデルを用いて解析を行ってきたが、今後は重力流のような非線形的な効果が与える影響について、流体の基礎方程式を用いたスケール解析等による理論的考察を通して明らかにする。また、全球沿岸域を対象とした衛星観測データの統計解析を行うことで、降水の全球水循環に対する寄与を明らかにする。さらに、全球降水観測計画(GPM)主衛星には、日本が開発した世界初の衛星搭載二周波降水レーダであるDPRが搭載されている。DPRの二周波観測による霰や雹のような降水粒子判別や雨滴粒径分布の解析は、沿岸域の降水メカニズムを理解するために重要と考えられ、今後の課題の1つである。2024年に5月打上げが予定している雲エアロゾル放射ミッション「EarthCARE」に搭載される雲プロファイリングレーダ(CPR)のさらなる活用も今後の発展として期待できる。
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