研究課題/領域番号 |
23KJ1303
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分44050:動物生理化学、生理学および行動学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
板原 彰宏 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,200千円 (直接経費: 4,200千円)
2025年度: 1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
2024年度: 1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
2023年度: 1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
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キーワード | カラス / 視線 / 認知 / モーションキャプチャー / 姿勢追跡 / 注視 / 動物行動 |
研究開始時の研究の概要 |
カラス科の動物からは優れた知性が示唆されているが、自由に社会的なやりとりを行うカラス同士がどのように視線をやり取りし、そのやり取りが自然な社会生態的文脈においてどのような役割をもつのかは明らかにされていなかった。そこで、赤外線モーションキャプチャー技術や機械学習を利用した姿勢追跡技術を利用してカラスの頭部の動きを高い時空間的解像度で追跡することによって、カラス同士がお互いの頭部や視線の動きを介して行うコミュニケーションについて調べる。そして、カラス科で進化してきた知性の特徴やその知性が社会生態的にどのように機能しているのか明らかにすることを目指す。
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研究実績の概要 |
赤外線モーションキャプチャー技術を利用してカラスの注視方法について調べた論文を出版した。本研究の内容については、2023年夏にドイツで開かれた学会「Behaviour 2023」にてポスター発表を行った。 2023年度の研究は、まず、複数個体の動きを同時追跡するために、赤外線モーションキャプチャーシステムで記録されたデータを処理するためのプログラムの改良に取り掛かった。この改良によって、複数個体の動きを同時追跡する際に頻繁に起きてしまう個体の誤検出を補正することができるようになった。改良されたデータ処理プログラムを利用して、ハシブトガラスが他のカラスの視線の動きを追従する能力があるのかについて調べた。その結果、カラスは他のカラスの視線の動きを追従するという結果は得られなかった。また、カラスがヒトの動きを予測して視線を動かすのかについて調べた。その結果、カラスが予測的に視線を動かすという結果は得られなかった。2024年度には、実験条件や提示する刺激を改良して、再度実験を行う予定である。 また2023年度は国際共同研究も開始した。赤外線モーションキャプチャー技術を利用してカラスの動きを追跡する手法は、一時的にカラスを保定する必要があり、研究対象は飼育下の動物に限られていた。そこで、コンスタンツ大学の研究者と共に、同期した複数のカメラでカラスを撮影することによって、カラスの三次元的な動きを追跡する技術(マーカーレスモーショントラッキング技術)の構築に取組み始めた。また、ウィーン大学の研究施設を2か月間訪問し、ワタリガラスを対象とした認知研究にも着手した。予測に反した出来事を目にすると注視時間が長くなるのか、また予測的に視線を動かすのか調べるための実験を行う予定であったが、カラスが実験装置に慣れるのに想定以上の時間が必要となり、十分なサンプル数を確保することができなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初の予定通り、赤外線モーションキャプチャー技術により記録されたデータを処理するためのプログラムの改良を行い、カラスの動きを複数個体同時に追跡することが可能となった。そのプログラムを利用して、カラスが他個体の視線を追従するのかを調べるための研究を進めた。さらに、海外の研究グループとの共同研究を開始することによって、当初2024年度以降に開始する予定であった、カラスにマーカー等何も取り付けない手法での三次元的な動きの追跡手法(マーカーレスモーショントラッキング技術)の開発が大幅に進んだ。現在は、追跡精度の検証を進めている。また、ウィーン大学の研究施設との調整がうまく進んだことにより、2025年度に開始する予定であった、ワタリガラスの認知実験にも着手することができた。予定していた実験を完遂することはできなかったものの、現地でのカラスの行動観察を通じて、カラスの警戒心に関する新たな研究テーマを思いつき、国内での新たな研究に結びついた。 総じて、当初の想定を上回るスピードで研究に着手できたものの、いずれの研究においても仮説通りの結果が得られなかった。本年度は、それらの結果から得られた知見を活かして、カラスの認知実験を主に進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度に赤外線モーションキャプチャー技術のデータ処理手法を構築できたことに伴い、年間を通じて繰り返し実験を行う準備がようやく整った。本年度からは、実験と分析を同時並行で進めることにより、実験と改良を繰り返していく。2023年度を通して、多くの研究を開始することができたが、いずれの研究においても仮説通りの結果を得ることができなかった。その要因の一つとして、カラスが他個体に注意を向ける動機をうまく作りだせていなかったことが挙げられる。本年度以降、カラス同士の視線を介したコミュニケ―ションについて実験を行う際は、カラスが他個体に注意を向ける動機を作り出せるように、実験環境を洗練させていく。また、昨年度の実験から、カラスに複数の刺激を提示した際にいずれの刺激に注意を向けているのかを調べることが可能であることが分かった。そのため、本年度はその実験パラダイムを利用したカラスの認知実験に力を入れて進めていく。さらに、不確実性に対するカラスの警戒心を調べるための野外実験にも着手する予定である。
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