研究課題/領域番号 |
23KJ1313
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分39030:園芸科学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤原 陽介 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,700千円 (直接経費: 3,700千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,300千円)
2023年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
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キーワード | 完全甘ガキ / プロアントシアニジン / ゲノムアセンブリ / 倍数性 / 候補遺伝子 / 分子育種 |
研究開始時の研究の概要 |
完全甘ガキ(PCNA)は渋みの原因物質であるプロアントシアニジン(PA)蓄積の継続性を喪失した変異体であり、この形質は単一の遺伝子座、ASTの潜性アレルによって賦与される。一方で、カキゲノムの複雑性が一因となり、AST本体とその分子機構は未同定である。これまでの研究で、ASTと強く連鎖し、PCNA特異的に機能欠損している有力な候補遺伝子が単離されたが、機能が不明であり、変異の原因多型も明らかになっていない。本研究では、多様なカキ品種・系統群のゲノムシーケンスデータを活用して原因多型を同定し、モデル植物や果実への遺伝子導入実験・タンパク質相互作用実験を通して、ASTの分子機能解明を目指す。
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研究実績の概要 |
カキは果実中に渋味成分であるプロアントシアニジン(PA)を多量に蓄積する。カキ品種はPA蓄積パターンにより完全甘ガキ(PCNA)とnon-PCNAに分類され、日本タイプのPCNAは単一遺伝子座ASTRINGENCY(AST)の潜性アレルによって賦与される。近年のカキ育種は新PCNA品種の作出が目標であり、分子育種への応用を見据え、ASTによる甘渋性制御のメカニズム解明に向けた研究を実施している。本年度は、六倍体カキゲノムでのAST座乗領域におけるアセンブルを試みた。また、構築された配列を利用して、カキゲノム上で甘渋性と強く連鎖する多型の検出を再度行った。 第一の実験では、non-PCNA品種である‘太天’ゲノムを、高精度なロングリードでシーケンスした。‘太天’の親品種である‘黒熊’と‘太秋’のゲノムシーケンスを活用し、trio binning処理により‘太天’ロングリードを各親由来ハプロタイプ群ごとに分類した。群ごとにアセンブルを行うことで倍数性を半減でき、AST座乗領域において‘太天’の六種類のハプロタイプのうち五種類を構築できた。AST座乗領域が絞り込まれた二倍体ゲノムと比較し、領域内では構造変異が存在せず、六倍体ゲノム上でも同一の領域にASTが座乗すると考えられた。 第二の実験では、上記で得られたASTハプロタイプを参照配列とし、甘渋性分離集団と多様な品種のゲノムシーケンスを解析した。甘渋性と連鎖する多型をフィルタリングした結果、単一の遺伝子内にAST連鎖多型が集中していた。この遺伝子はこれまで着目していたものと一致しており、現在はAST変異の決定多型の候補を絞り込んでいる。また、タバコにおいてカキのPA関連遺伝子を過剰発現させ、花弁色でPA蓄積を評価できることを確認した。候補遺伝子の機能検証へ向け、現在はモデル植物とカキ属を用いた形質転換実験に着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一の実験では、AST座乗領域において‘太天’が持つ五種類のハプロタイプ配列を構築でき、六倍体ゲノムを直接解析することが可能となった。現在は、ASTとastハプロタイプ配列を比較し、数kb単位の構造多型を含むAST変異の決定多型の探索を行っている。また、全長mRNAシーケンスを各ハプロタイプ配列にマップすることで、候補遺伝子の転写産物バリアントと変異の関連性について調査を行っている。 第二の実験では、多型解析をカキゲノム上で行い、有力な候補遺伝子の単離に改めて成功した。検出されたAST連鎖多型のほとんどが候補遺伝子の座乗領域に集中していたため、この遺伝子は非常に強く甘渋性と連鎖すると考えられる。この遺伝子は機能が全くの不明であるため、今後はカキカルスやモデル植物における形質転換実験を通して、候補遺伝子の機能検証を行っていく必要がある。 以上より、本研究課題の主題において基盤となる研究結果が得られた一方、今後も精力的に研究を行う必要があり、全体として予定通りの進展であるという自己評価とする。
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今後の研究の推進方策 |
ASTの遺伝制御解明に向けて、今後はastアレル特異的な原因多型を同定し、機能欠損の要因の解明に向けた研究を展開する。現在までに‘太天’ハプロタイプ配列の比較により、候補となる構造多型の検出まで至っている。また、転写産物クローニングにより、候補遺伝子には多くのmRNAバリアントが存在する可能性が示唆されており、既に取得済みである‘太天’果実由来の全長mRNAシーケンスに加えて、新たに多数の品種の解析を予定している。 加えて、ASTの分子機能の解明に向けて、形質転換実験により候補遺伝子の機能検証を試みる。材料には、形質転換が容易であり、花弁色によってPA蓄積の有無を検出可能なタバコのほか、形質転換手法が確立されているPCNA品種‘次郎’およびアブラガキを供試する。カキおよびアブラガキの再分化系統を得るには時間を要するため、これらはカルスにおいて評価を行う。過剰発現系統およびノックダウン系統を作出し、PA蓄積に関連する表現型の測定を行う。さらに、候補遺伝子の分子的機能を解明するため、Yeast two hybridスクリーニング等によるタンパク質機能に関する実験にも着手する予定である。 一方で、カキ果実にはAST遺伝子型に依存しないPA蓄積制御メカニズムも存在する。PCNA個体においてもヒトが感じられるほどの強い渋みを呈する「渋残り」個体が存在し、PCNA育種における障壁となっている。また、渋残り個体の果実ではPAが液胞内で蓄積するタンニン細胞に特徴がみられることが予備実験により報告されている。今後は、渋残り現象の要因解明へ向け、育種集団内で発見された渋残り個体において果実PA量やタンニン細胞の特徴を計測する。
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