研究課題/領域番号 |
23KJ1315
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川本 大志 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
2025年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | ブラックホール / 非平衡統計力学 / ホログラフィ対応 / 膨張宇宙 / 量子開放系 / 量子エンタングルメント / 超弦理論 / 量子カオス |
研究開始時の研究の概要 |
近年、ホログラフィ対応を用いたブラックホールの動力学の理解に注目が集まっている。特に情報喪失問題において重要な蒸発するブラックホールの理解は不明な点が多い。しかしながらホログラフィ対応の例であるAdS/CFT対応で扱いやすいブラックホールは熱力学的に安定で蒸発しないことが知られている。 本研究では、ブラックホールの蒸発を熱平衡化の条件や量子カオスなどの平衡・非平衡統計力学的な視点から理解することを目指す。特にAdS/CFT対応の拡張であるダブルホログラフィ対応を用い、蒸発するブラックホールと等価な物質の理論での熱平衡化について詳細に研究を行う。
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研究実績の概要 |
蒸発するブラックホールや膨張宇宙のホログラフィ対応を用いた理解に関して様々な観点から研究を行った。 1)確率論における集中不等式を用い、熱平衡状態と熱力学極限で大きく異なるエネルギー固有状態の数の評価を行った。重力双対にホライズンがある場合に固有状態の数が熱力学エントロピーに関して二重積分的に小さいことを示した。このことから重力双対を持つ共形場理論はその可積分性と矛盾せずカオス的な部分があることが明らかになった。 2)蒸発するブラックホールをAdS/CFT対応を用いて構成するために、二つのAdS空間をそれらの共形境界において接続条件を課し、それらの境界条件を満たす非自明な解を構成した。接続面上の理論は重力を含み、ストレステンソルはVirasoro条件よりゼロになり、かつ、TT-bar変形におけるフロー方程式を満たすことが明らかになった。 3)dS時空に新たな時間的な面を用意し、その面上の場の理論と切り取られたdS時空とのホログラフィ対応を新たに提唱した。特に、境界の場の理論での量子もつれを解析し、それらが満たすべき性質である強劣加法性が成立しないことを明らかにした。さらに、このような強劣加法性が破れる理由として、境界上の場の理論が非局所的であると予想した。 4)重力双対を持つ量子開放系のモデルとして、終状態を持つ共形場理論とその重力双対を構成した。この系での量子もつれの構造を調べ、それらが物性理論における測定誘起相転移と似た振る舞いをすることが明らかになった。 5)ヒルベルト空間や理論によらない正則化と量子もつれの大きさの新たな計算の方法を与えた。この計算において、動径座標の解析接続に伴い、Schwinger変数も解析接続することで、有限のエントロピーが導出されることが明らかにした。さらに、この計算でのエントロピーは複素数値をとり、正則化によらない項を正しく導出されることを明らかに。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
重力崩壊におけるブラックホールの形成と対応する共形場理論の熱平衡化に関する問題に関して大きな進捗を生んだ。統計力学で知られ確率論的手法により、ほぼすべての初期状態が熱平衡化することを示し、この問題に対し、部分的な答案を与えたといえる。また、蒸発するブラックホールのホログラフィ対応の研究に関しては、その基本的なセットアップである二つの接続されたAdS/CFT対応の一般化の基本的な部分の理解が進んだ。またこのモデルの応用として、膨張宇宙のホログラフィ対応に関して重要な結果を得た。具体的には、通常のAdS/CFT対応と異なり、境界面の理論が非局所的であるということが明らかになった。また、測定を含むより一般的な非平衡過程の重力双対の構成に関する基礎的な理論を築いた。これらの重要な結果がこの一年でいくつも得られたことは当初の計画では予想されなかったことであり、研究の進捗状況は極めて良好といえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性として、共形場理論の熱平衡化の問題と蒸発するブラックホールの問題の二つがある。まず熱平衡化の問題の方向性として、熱平衡状態と異なるエネルギー固有状態の数の評価において、それが小さいがゼロでないため、いくつかのエネルギー固有状態は熱平衡化を起こさないことが期待される。このような初期状態をN=4超対称ヤンミルズ理論やAdS上の弦理論における可積分的な構造に着目し具体的に構成する。またこれらの状態の重力双対がどのように理解されるかを議論する。 蒸発するブラックホールの問題に関しては二つの指針がある。一つは蒸発するブラックホールを扱うことのできるダブルホログラフィ対応のより詳細な理解である。ダブルホログラフィにおいて、蒸発するブラックホールは一次元高い境界を持ったAdS量子重力の境界面上に誘導された重力理論の解として現れることが予想されている。しかしながら、現在、この誘導された重力理論が具体的に一次元高い重力理論から正しく導出されていない。今後の方針として、ブレーンワールド理論やホログラフィック繰り込みの知見を用い、AdS理論からの射影を正しく行うことで導出されることが期待される。また、蒸発するブラックホールに特有の不安定性が安定な共形場理論の有効的な記述の中にどのようにして現れるかを理解する。別の方向性として、蒸発するブラックホールが熱浴に接したAdSブラックホールであらわされることに着目し、そのAdS境界上の理論として散逸のある量子開放系が候補としてあげられる。このような重力双対を持つ量子開放系の理解はその基本的な構成さえ理解されていない。今後の指針として、熱浴との相互作用を具体的に指定し、熱浴部分の経路積分を具体的に実行し、散逸を伴う有効的な共形場理論の構成とその重力双対の構成を目標とする。特に、具体的な実時間相関関数の計算の対応を見る。
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