研究課題/領域番号 |
23KJ1348
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹内 彩也花 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
2025年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 西田幾多郎 / 京都学派 / 表現 / 自覚 / 超越論哲学 / 芸術表現 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、「表現」の概念から西田哲学の方法論を再解釈し、この方法が開く哲学的(また文学的、宗教的)表現の新たな可能性を掘り起こすことを目指す。従来「表現」は後期の重要概念として注目されるが、本来、前期から一貫した「自覚」の方法と密接な関わりを持つ。また「表現」には、「自覚」からはクローズアップされない、芸術制作・政治・教育・宗教などにまたがる、領域横断的な広がりが見られる。 これを踏まえ本研究では、「自覚」と「表現」をつなぐ方法論研究と、美学や宗教思想の受容、田辺元やマルクス主義との論争を含む「表現」概念の各論的な生成研究を総合し、「表現」の方法がどのような意義と射程の広がりを持つか考える。
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研究実績の概要 |
本研究は、「表現」を西田幾多郎の哲学を一貫するテーマとして据え、この概念がいかに変化していったかをあとづけることで、西田哲学全体の再解釈を目指すものである。本年度は、主に前期の思想に相当するテキストの読解をおおよそ終え、「表現」という事態の二つの根本的なモチーフを取り出すことができた。
①論文「『善の研究』の「基礎づけ」再考」(日本哲学会『哲學』に掲載)は、「表現」概念の初出形態である「表現manifestation」の成立構造について明らかにした。西田の哲学には、初めから「事実其儘」の「純粋経験」に定位する立場と、そのような純粋経験がより「根柢的」に自ら発展し、深まってゆく立場が併存している。「表現」とは、この二つの立場の緊張関係の中から生じてくる運動を、探究する我々自身の脱自を契機として、根柢的なものの側から見た事態である。従来、実在の全体が「あるがまま」にある純粋経験の中で、「根柢的」な次元を生み出している差異とはいかなるものか、それがどのように経験の自覚的な探究ないし「表現」の運動を生じさせるのかは問われて来なかった。当該論文では、中期までの西田の立場と関わる超越論的反省との関係を補助線とすることで、その成立構造を明確にした。この論文について、日本哲学会若手研究者奨励賞を授与された。
②論文「芸術論は「自覚」に何をもたらしたか」(関西哲学会『アルケー』に掲載)では、 ①とは異なる「表現」のモチーフが取り込まれる前期の芸術論を扱い、そこで自覚や表現といった西田哲学の根本主題がいかなる変容を被ったかを明らかにした。結論として、この時期の芸術表現の行為としての自覚の再解釈が、その後の西田の思想全体を支える自覚概念成立の重要な契機となったこと、また言語を絶した直接経験や「無」なる根柢に定位しながら、形あるものとしてそれらを語る可能性を示唆するものであったことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初の研究計画において予定していた前期著作の読解を完了させ、今後の研究の基礎を作ることができた。ただ、修士論文の後半部分、『自覚に於ける直観と反省』に関する部分をブラッシュアップし、論文化するという作業については、予定を変更して中期・後期の著作の読解を進めたこともあり、終えることができなかった。この作業は次年度の課題とするつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、『自覚に於ける直観と反省』に関する部分の論文化を進めるとともに、『無の自覚的限定』に結実する中期の著作の読解を進める。 これまでの超越論哲学を補助線とした読解によって、表現という事態を構成する基本的な骨組みは理解することができた。この方向性は、西田が自身の立場を「徹底的批評主義」と呼び、カントにおける知識の批判的基礎づけの道行きをある仕方で徹底化させている『一般者の自覚的限定』ごろの著作までは有効と思われる。しかし最終的に「私の立場はカントの認識論の立場の対蹠である、その裏返しである、コペルニクス的転回の転回である」と表現される後期の立場を包括することはできない。また、我々の居合わせる事実と「根柢」的次元の関わりは、自覚や表現を可能にしている根源的な地平ではあるものの、その内実や、そこで生じる変容のすべてを汲み尽くすものでもない。 以上の課題を踏まえ、後期の読解と、「根柢」が開いている深さを異なった角度から見るための新たな視座を獲得すべく、「表現」という事態の中に読み込まれていく「時間(特に記憶)」および「他者」の問題を主題化する。それぞれについて口頭発表・論文化を予定している。 また、昨年度は成果の発表が日本語に限られたことを踏まえて、記憶に関する発表はEuropean Network of Japanese Philosophyの年次大会にて英語で行う。
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