研究課題/領域番号 |
23KJ1357
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分38010:植物栄養学および土壌学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹内 航 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
2025年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 光合成 / 光化学系I / 光阻害 / 低温ストレス / 活性酸素 / 鉄硫黄クラスター / 鉄 / 代替的電子伝達 |
研究開始時の研究の概要 |
植物は低温ストレスにより光合成が阻害されるが、低温ストレス時に葉緑体から発生する活性酸素種 (ROS) の制御機構に関しては不明な点が多い。本研究では、独自に見出した異なる低温ストレス耐性を持つキュウリ品種を用い、低温ストレス時のROS発生量やROSの種類と、低温ストレス耐性との関係を明確にする。キュウリの低温障害では、葉緑体の光化学系I (PSI) が損傷する。そこで、PSIでのROS発生量を抑制した形質転換体を作製し、低温耐性を検証する。さらに、PSIが分解されると鉄が放出され、ヒドロキシラジカルの発生リスクが高まることから、低温ストレス時における鉄イオンの動態制御の重要性を検証する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、植物の低温ストレス耐性を支える分子機構を明らかにすることである。本年度は、低温ストレス時に発生する活性酸素(ROS)の量的制御の重要性を示すために、光合成活性解析による光化学系からのROS発生量を検討した。加えて、発生するROSの質的制御の重要性を、ROSの反応性を高める鉄の栄養状態と低温ストレス耐性の関係から解析した。以下に具体的な研究内容を記す。 まず、独自に見出した異なる低温ストレス耐性を持つキュウリ品種について、低温ストレス時のROSの発生源である光化学系I (PSI)への影響を比較した。その結果、低温ストレスにより、低温感受性キュウリ品種ではPSI下流の過還元が生じ、PSI反応中心クロロフィルP700の減少と細胞死が生じることを認め、低温ストレス時にPSIの過還元を抑制することが重要であることを実証した。現在、低温感受性キュウリ品種でPSIが過還元になる要因を探索し、PSIの電子アクセプターとなり得る光呼吸や循環的電子伝達の低温による不活化の可能性を調べている。加えて、低温感受性キュウリに、PSI下流でROSを消去するタンパク質の遺伝子を形質転換により導入することを試みており、キュウリの低温耐性の向上に繋がるかを検証する。 次に、ROSの反応性を増強させる鉄イオンが低温耐性に関わる可能性を検討した。鉄栄養を様々に変化させて低温ストレスを与えた場合、鉄過剰植物では顕著な酸化障害を受け、対照的に鉄欠乏植物では低温ストレス耐性が向上した。ICP-MSによる網羅的元素分析や鉄ホメオスタシスに関わる遺伝子の発現解析から、低温ストレス時に鉄の動態を適切に制御し、ROSの反応性を抑制することが植物の低温ストレス耐性に重要であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ROS発生をもたらすPSI下流の還元状態の違いから、種々のキュウリ品種の低温ストレス耐性を評価できたため、1年目に予定していたストレス時のROS発生抑制の重要性を実証できた。現在、低温に弱い品種がPSI下流の過還元に至る分子メカニズムの解明を進めている。加えて、鉄によるROS毒性の亢進に関して、鉄栄養の観点から低温ストレス時の鉄制御の重要性を検証した。低温ストレス時の鉄栄養が過剰であると植物は顕著に酸化障害を受け、対照的に鉄欠乏では低温ストレス耐性が向上することを明らかにできた。一方で、予定していたキュウリ形質転換体の作出は完了に至らず、現在も進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
・PSIにおいてROS発生を抑制する形質転換体の作出と解析により、低温ストレス耐性におけるROS発生制御の重要性を確認する。 ・低温耐性品種と低温感受性品種の比較解析から、ROSによるPSI光阻害の程度に品種間差が生じる原因を追求し、PSIを低温ストレスから守る機構を解明する。特に、代替的電子伝達(AEF)によって低温ストレス時の余剰な光エネルギーを消費することが光阻害抑制に重要であるかを検証する。 ・鉄イオンに関して、PSI光阻害時の葉緑体からの鉄の放出が低温ストレス障害に繋がることを検証するため、低温ストレス時の鉄硫黄クラスターの損傷を調べ、鉄硫黄クラスター損傷後の鉄捕集能や脂質の過酸化状態を調べる。
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