研究課題/領域番号 |
23KJ1440
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分18020:加工学および生産工学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
李 君寰 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 触媒援用化学エッチング / 半導体表面微細加工 |
研究開始時の研究の概要 |
柱状のシリコン(Si)結晶により表面積を稼ぐナノワイヤ型構造は、大容量光通信を実現するための光集積回路への開発が期待される。本研究では、ナノカーボン触媒による半導体表面の加工素過程を把握し、リソグラフィプロセスを組み合わせた、貴金属に頼らない新たな触媒援用型の微細加工法を打ち立てる。また、得られたナノワイヤ構造について、光吸収率や透過率等の光学特性を正しく測定・評価することも目指す。
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研究実績の概要 |
金属アシストエッチングは、貴金属の触媒効果により、接触した半導体表面が溶液中で選択的に溶解する現象を利用した加工法である。「深堀加工が可能なウエットエッチング」という大きな特徴を持つものの、触媒となる貴金属が半導体デイバス中に欠陥準位を作る汚染源であり、電子産業への広い展開を妨げている。本研究は、貴金属を代替する加工用触媒として、多様な異種元素をドープしたり、意図的に欠陥構造を導入した“機能性グラフェンシート(ナノカーボン)”に着目する。そして、貴金属に頼らない新たな触媒援用型の微細加工法を打ち立てる。 私たちは、共同利用施設であるスーパーコンピューター(設置場所:東京大学物性研)を用いた第一原理計算を行い、ナノグラフェンシートの電子密度分布を原子スケールで調査した。特に、エッジ部やシート内部のシワ構造などの線形欠陥に焦点を当てた。過去に我々の研究グループでは走査型トンネル顕微鏡(STM)を使用して、ナノグラフェンシート上で特異な長方形状の超構造を可視化することに成功した。このような電子分布は、グラフェンが六角形の“蜂の巣”状の原子構造を持つことを考慮すると、非常に興味深い。実験データを検証するため、両端に水素終端化されたエッジ部を持つグラフェンナノリボンの計算モデルを構築し、その電子状態をシミュレーションした。得られた電子状態密度を基に、STM画像のサンプルバイアス依存性を調査し、実験で得られた輝点配列の考察を行った。 上記の研究では、ナノグラフェン内部の新しい超構造の起源を明らかにし、グラフェンの電子状態に関する新たな基礎的知見を得た。また、グラフェンのエッジやしわなどの局所的な欠陥の電子密度分布と、触媒活性サイトとの関連性を考察した。これは、ナノカーボン触媒を利用した加工手法の開発に繋がる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
触媒活性サイトの起源を解明することで、ナノカーボンの触媒活性を制御することを試みた。グラフェン(ナノカーボン)は、貴金属に頼らない新たな微細加工技術を開発する上での鍵となる材料であり、その電子状態を理解することは高性能な触媒の作製に不可欠である。 これまでに私たちは、グラフェン中における局所欠陥の電子状態を原子レベルで解析する点で、進捗を遂げた。具体的には、ナノリボンモデルを構築することで、グラフェンのエッジが内部電子状態に及ぼす影響(超構造の形で現れる特異な電子状態)を明らかにした。さらに、グラフェンナノリボン内部にシワ状の線状欠陥を導入し、異なる種類の欠陥が互いにどのような影響を与え合うかについて、深い洞察を得た。以上により私たちは、当初の目標に向けて確かな一歩を踏み出した。 一方で、実際の加工実験では、未だ未達成の部分もある。例えば、ナノカーボン触媒を使用した半導体表面上へのトレンチ構造が挙げられる。今後は、ナノカーボン材料の触媒特性をさらに詳しく調査し、より効率的で精密な半導体表面の微細加工技術の構築を進めたいと考えている。これまでに蓄積した技術を駆使し、残された課題についても取り組みたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、貴金属に頼らない新たな半導体表面の触媒援用型微細加工法を実現するために、以下の項目で研究を進める予定である。 まず、Geなどの半導体表面の実際の加工に焦点を当てる。現段階では、既存のプロセスをベースにエッチング液に強い酸化剤を添加することで、Ge表面のエッチングレートを向上させることを試みている。主な問題は、望ましくないオーバーエッチング、すなわち半導体の垂直方向からずれた方向にエッチングが行われる点にある。我々は、基板の裏面に電圧を印加することで化学反応の方向を制御し、異方性かつ非破壊的な加工を実現したいと考えている。この目標を達成するためには、新たな実験装置を設置し、まずエッチングプロセス中に安定した電圧を試料に印加・調整できることを確認したい。 さらに、電圧の絶対値がエッチングに与える影響も評価する必要がある。そのためには、様々な電気化学分析法を通じて、加工された表面や材料の電気化学特性、その他のパラメーターをモニターする必要がある。これを実施するにあたっては、過去の研究を参考にしながら進めていきたいと考えている。上記に加え、我々はナノカーボン触媒をより詳細に理解したいと考えている。具体的には、ナノカーボンや、これを散布した半導体表面の原子レベル観察と理論計算を組み合わせる、これまでの戦略を継続する。最後に、学会発表を通して、他の研究者とのコミュニケーションや意見交換を積極的に図り、研究の進捗に役立てる。
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