研究課題/領域番号 |
23KJ1500
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分14010:プラズマ科学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村山 大輔 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,500千円 (直接経費: 1,500千円)
2025年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
2024年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
2023年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
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キーワード | メタン / 氷物質 / 巨大氷惑星 / 第一原理分子動力学法 / 硫化水素 |
研究開始時の研究の概要 |
WDMとは、密度が固体状態と同程度で、温度が104~107Kの熱力学的状態のことをさす。しかしながら、WDM領域は古典的な理想プラズマと凝縮体の間の熱力学的な中間領域に属するため、粒子相関の増大によりいくつかの近似が破綻する可能性があり、物理特性を一貫して記述することが困難である。本研究では、WDM物質の複雑な特性を解明するために第一原理分子動力学シミュレーションを用いる。本研究によって得られる結果は、高エネルギー密度物理学分野、特に慣性閉じ込め核融合(ICF)、衝撃実験、惑星科学分野において非常に重要である。
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研究実績の概要 |
温度2000から4000 K、圧力50から300 GPaのメタンの第一原理分子動力学計算を行い、構造的特性と化学結合性を評価した。我々の結果から、高温高圧状態でメタンの分子乖離の際に水素分子の形成と崩壊がps未満の時間スケールで繰り返し行われていることが分かった。密度増加に伴い、水素分子の形成と崩壊の周期が早まることも分かった。また、電子状態密度と電子密度の空間分布の結果から、メタンの系全体が金属化していることが確認できた。したがって、先ほど述べた水素のミクロスケールの振る舞いが系全体の金属化に寄与していることを示唆している。この研究成果は巨大氷惑星内部上で起こりうる炭化水素化合物からダイヤモンド結晶化に至るまでの構造変化に関する素過程を詳細に理解するうえで重要である。 さらに、巨大氷惑星の大気中に含まれる硫化水素に着目し、上記の研究を発展させてメタンと硫化水素の混合系に対して第一原理分子動力学計算を行った。基本的な物理特性の構造変化と化学結合性を明らかにした。加えて、硫化水素による炭素の凝集に対する影響を調べるために拡散係数や結合の寿命を計算して純粋なメタンの系と比較を行った。その結果、150 GPa以下の領域では硫化水素の腐食性によりメタンの分子乖離が促進されることが判明し、それよりも高い圧力では炭素の凝集を阻害しうることが分かった。天王星や海王星の大気中には硫化水素が太陽系元素存在比を考慮しても多量に含まれていることが分かっている。本研究結果はその硫化水素の大気中の異常な割合の解明につながる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
巨大氷惑星内部環境のメタン構造的特性と化学結合性に関する研究が大きく進展した。上記の研究実績にある通り、巨大氷惑星の内部物質として重要なメタンの極限環境の振る舞いに関する理解を深めることができた。温度2000から4000 K、圧力50から300 GPaのメタンの第一原理分子動力学計算を行うことで構造的特性と化学結合性を評価した。この研究成果として4月に神奈川県横浜市で行われた国際学会OPIC2023(ポスター発表)と6月に兵庫県淡路島で行われた国際学会WDM2023(口頭発表)に参加し、アメリカやフランスの研究者と議論することができた。並行して、Journal of Applied Physics誌に論文を発表することができ、この研究は完結した。 また、巨大氷惑星の大気中に含まれる硫化水素に着目し、これまでの研究を発展させてメタンと硫化水素の第一原理分子動力学計算を行った。基本的な物理特性である構造変化と化学結合性を明らかし、硫化水素による炭素の凝集に対する影響を調べるために拡散係数と結合の寿命を計算した。その結果、圧力の低い領域では硫化水素はメタンの分子乖離を促進させ、圧力の高い領域では炭素の凝集を妨げる効果があることが分かった。この研究結果については、2月にフランスで行われたウィンタースクールMECMATPLAでポスター発表を行った。 このように、令和5年度ではメタンと硫化水素の混合系という2つの研究テーマに関する進展が得られ、計画以上に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
メタンとの混合系として、重要な硫化水素に着目してさらなる研究を進める。硫黄の存在が炭素の凝集に有意に影響を与えていることを明らかにするとともに、混合系において同じく重要と考えられている酸素元素と類似の役割を果たす可能性を示す。すでに論文の執筆を開始しており、令和6年度のうちに出版を目指す。 巨大氷惑星内部で、炭素と水素、酸素が混合可能性を検討するために、3元系(炭素-水素-酸素)について第一原理分子動力学計算を行う。平均二乗変位を計算して、動的特性の観点からこの3元系を4つの相に分類した。その結果、純粋の水でみられるようなスーパーアイオニックの相が発言することが明らかとなった。相図上で、スーパーアイオニックの状態は巨大氷惑星の内部条件と重なっており、巨大氷惑星内部では炭素と水素、酸素は混合可能であることを示唆する。また、3元系のスーパーアイオニックは水のものと異なっており、水素の拡散に異方性があることが分かった。 巨大氷惑星内部では、炭素はダイヤモンド、水は様々な氷の相に変化する。ダイヤモンドと氷の相境界の存在は、巨大氷惑星のダイナミクスを理解するうえで重要である。その相境界の安定性調べるために、ダイヤモンド(もしくはアモルファスダイヤモンド)と水の高圧相(Ice X)の2相シミュレーションを行う。また、ニューラルネットワークという機械学習法を導入して古典ポテンシャルを構築し、時間スケールと空間スケールを拡張させることでよりマクロな系の振る舞いを予測する。
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