研究課題/領域番号 |
23KJ1511
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分34010:無機・錯体化学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
渡部 太登 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
2025年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 有機合成化学 / 光化学 / 電気化学 / 二酸化炭素 / 電子移動 / ハロゲン原子移動 / 水素原子移動 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、「光からのエネルギー獲得」および「CO2を用いた複雑骨格を持つ化合物の合成」を両立する新規コンセプトの反応系、すなわち次世代型人工光合成系の構築を目指す。 新規反応系の構築に向けて、まず光応答性の分子を光化学的条件下で活性化し、この活性中間体を鍵として、安定性の高い分子とCO2を原料とする光化学的3成分反応の開発とそのメカニズム解明に取り組む。その後は、3つの異なる機能(①光増感機能、②CO2活性化機能、③CO2捕捉機能)を搭載した多種機能統合型Ru錯体を開発し、本錯体を用いてCO2活性化を鍵とする触媒系の構築とメカニズム解明を行う。
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研究実績の概要 |
本研究課題では「光からのエネルギー獲得」および「二酸化炭素(CO2)を用いた複雑骨格を持つ化合物の合成」を両立する新規コンセプトの反応系、すなわち次世代型人工光合成系の構築を目指す。 具体的には、出発原料を「光化学的手法を用いて活性化」し、「エネルギー的に不利なカルボン酸誘導体化合物」の合成を行う。この実現のため、2023年度は光化学的条件下で容易に活性化可能な「感光性分子:PSM」と、豊富に存在し入手が容易であり、生成物の基本骨格を成す「基礎骨格分子:BSM」を用いたPSM活性化駆動型3成分反応の開発に取り組んだ。まず、可視光照射条件下で光触媒による1電子酸化により容易に高活性なラジカル種へと変換可能なアシルドナーであるベンズイミダゾリン類をPSMとして活用した、アルケンの可視光駆動型アシルカルボキシ化反応の最適化、基質一般性の調査を行った。さらに実験的・理論的研究によりその反応メカニズムを明らかにした。また本反応が目的の「エネルギー獲得型」の「CO2を用いた複雑分子骨格合成」を両立する反応系であることも明らかとなった。 さらに、光触媒との電子移動により活性化されたアミン類をPSMとするハロゲン原子移動(XAT)を用いて、ハロゲン置換基を有する化合物を活性化し、可視光駆動型XATによるアルケンの3成分カルボキシ化反応の進行を達成した。 また本年度は、光エネルギーと並ぶ持続可能性を有する電気エネルギーを駆動力として活用した電気化学反応の開発にも成功した。具体的には、非常に安価・低毒性・入手容易な化合物である酢酸を水素原子移動(HAT)剤として利用した電気化学的C(sp3)-H結合の官能基化を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
a本年度は申請前に得ていた萌芽的知見を基に、CO2を炭素源とする新規光化学的有機合成反応の最適化、および一般性の調査を行った。また実験的・理論的手法を用いて、本反応系の反応メカニズムを明らかにした。さらに量子科学計算により、本反応系が申請者の目標とする「光化学的手法」を用いた「エネルギー獲得型のカルボン酸合成法」であることを明らかにした。本成果については、既に論文執筆は完了しており、現在国際学術論文誌への投稿に向け作業中である。 続いて、PSM活性化駆動型3成分反応というコンセプトをより汎用的なものにするために、光触媒との電子移動により活性化されるPSMを鍵活性種として、本来活性化困難な分子を活性化することで、より入手しやすい原料を用いた新規CO2変換反応の開発に取り組んだ。具体的には、光触媒によりアミン類を活性化し、これを活性種とするXATにより、入手が容易かつ安価なハロゲン化炭化水素とアルケンを原料とする3成分CO2変換反応が進行することを予備的知見として発見した。これは本コンセプトが多様な反応系に応用可能であることを示す重要な発見である。 また、電気エネルギーを駆動力として、非常に汎用性の高い酢酸を水素原子移動(HAT)剤とする、電気化学的C(sp3)-H結合の活性化を達成した。本成果は国際学術論文として出版済みである。 以上の成果に基づき、2023年度における研究の進捗はおおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、主に2つのテーマを軸に研究を進める。まず2023年度に得た萌芽的知見を基に、(1)光化学的XATを用いたハロゲン化炭化水素とアルケンを原料とする3成分CO2変換反応の開発を行う予定である。予備的検討において、光触媒、CO2、XAT開始剤となる3級アミン、ハロゲン化炭化水素化合物、アルケン存在下において光化学的3成分CO2変換反応が進行することを確認した。本年度はより詳細な検討を行い、反応の最適化・反応一般性の調査・反応メカニズムの解明を行う。また理論計算を用いて、反応系の各過程におけるエネルギーを比較し、光からのエネルギー獲得を達成するステップを明らかにする。 続いて、(2)CO2直接活性化駆動型触媒反応系の構築を行う。反応系構築の際には2つの戦略を想定している。第一の戦略は、3つの異なる機能(①光増感能、②CO2活性化能、③CO2捕捉能)を一錯体中に搭載した三重機能統合型Ru錯体を用いたCO2の直接活性化である。2つ目の戦略は、多光子励起分子を用いた高還元力触媒系によるCO2の還元的活性化である。開発した錯体は分光測定・電気化学測定・構造解析を行い、その物性を明らかにする。また開拓した反応系については、それぞれ反応最適化・一般性調査・機構解析を行い、加えて量子化学計算を用いてエネルギー獲得型反応であることを確かめる。 以上2つの研究で得られた成果は、学術論文として公表する予定である。
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