研究課題/領域番号 |
23KJ1515
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分47010:薬系化学および創薬科学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
阪 一穂 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,200千円 (直接経費: 4,200千円)
2025年度: 1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
2024年度: 1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
2023年度: 1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
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キーワード | スルホニウム塩 / 重水素化反応 / アルキル化反応 / 重医薬品 / CYP代謝 / 速度論的同位体効果(KIE) |
研究開始時の研究の概要 |
重水素(D)は水素(H)の放射性のない安定同位体である。多くの医薬品はシトクロムP450 (CYP)により代謝されて失活するが、代謝部位のC-H結合を安定なC-D結合に置換すると、医薬品の安定性が改善されるため、服用回数の削減、副作用の軽減につながる。そのため近年、重水素化医薬品(重医薬品)の研究開発が盛んに行われているが、合成試薬は限定的である。本研究では、高い重水素化率を担保した多様な重アルキル化試薬を開発するとともに、重医薬品合成に応用し、代謝安定性の向上を達成する。また、重水素化反応のハイスループットスクリーニング法も開発し、重水素化化合物合成の効率化を実現する。
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研究実績の概要 |
重水素(D)は水素(H)の放射性のない安定同位体であり、炭素(C)-重水素(D)結合は炭素(C)-水素(H)結合よりも強固であることが知られている。また、医薬品の多くは生体内酵素によって酸化代謝されて失活する。したがって、医薬品の代謝部位(主にヘテロ原子隣接位)のC-H結合を安定なC-D結合に置換することで酸化代謝が抑制されるため、クリアランス改善や副作用軽減などが期待される。近年、代謝部位となるメチル基に重水素を導入した重水素化医薬品(重医薬品)が注目されている。重医薬品は対応する重水素化合成素子(試薬)から合成されるが、入手可能な重水素化合成素子は限られていることが課題である。そこで私は、安価で天然に豊富に存在する重水を重水素源に用いた、重医薬品の多様化に資する重水素化合成素子合成法の開発研究に取り組み、2023年度は以下に示す3点の成果が得られた。 【1】アルキルジフェニルスルホニウム塩を塩基存在下重水中で、酸性度の高い硫黄隣接位のみ選択的に重水素化できることを見出した。得られた重水素化スルホニウム塩を求電子的重水素化アルキル化試薬(重アルキル化試薬)として用いた結果、様々なヘテロ求核種と効率良く反応し、対応する重アルキル化体が得られた。 【2】重水素化スルホニウム塩は対応する重水素化アルキルアミンやハライド、アジドにも変換され、これらの重水素化分子は重水素化合成素子として機能することを見出した。 【3】重水素化スルホニウム塩を用いて合成した7-重エトキシフラボンとその水素化体をモデル基質として、速度論的同位体効果(KIE)実験を行った。7-重エトキシフラボンの肝ミクロソーム中での代謝速度は水素化体に比べて低下し、重水素化体を用いた際にラットへの経口投与後の最高血漿中濃度の上昇も確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
重アルキル化法の開発では、重水素化アルキルジフェニルスルホニウム塩の合成に成功したことで、多様な重水素化合成素子の調製と重アルキル医薬品への変換が可能となり、年次計画通り研究が進行している。また、ジフェニルスルホニウム塩骨格を変えると、新たな反応性を示すことが見出されつつある。2024年度は、当初計画していた重医薬品のより効率的な合成法確立と、重水素化反応のハイスループットスクリーニング法の開発、重アルキル鎖のCYP代謝安定性への影響解明に加え、重水素化アルキルスルホニウム塩を用いた新しい反応の開拓も行う。 上記研究成果は、3件の国内学会(創薬懇話会2023、第13回CSJ化学フェスタ2023、第40回メディシナルケミストリーシンポジウム)で発表し、うち第13回CSJ化学フェスタ2023ではポスター発表優秀賞を受賞することができた。また、筆頭著者として国際学術誌に論文投稿し、受理されるとともに、cover artに採用された(Angew. Chem. Int. Ed. 2023, 62, e202311058)。さらに、Synfacts (2023, 19, 1264)や、Org. Process Rec. Dev. (2023, 27, 2197-2210)で紹介していただいた。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度も引き続き、「重水素化化合物の効率合成法開発と物性評価」に取り組んでいく。 【1】重水素化アルキルスルホニウム塩の合成法改善と機能拡大に取り組む。2023年度、重水素化アルキルスルホニウム塩の合成を達成したが、スルホニウム塩に対して500当量以上の重水を必要とする。そこで、重水使用量を削減できる工業生産化を意識した合成法へと改良を目指す。また、アルキルスルホニウム塩の重水素化過程で、スルホニウム塩の骨格依存的に加水分解が優先して目的の重水素化体が全く得られない化合物があった。すなわち、スルホニウム塩骨格は重水素化反応やアルキル化反応の反応効率に大きな影響を与えることが示唆された。スルホニウム塩骨格を詳細に精査し、重水素化試薬に最適な骨格を見出す。さらに、重水素化アルキルスルホニウム塩の更なる機能拡大を模索する。 【2】重水素化反応のハイスループットスクリーニング法の開発を進める。重水素化反応は、得られる重水素化体と原料となる水素化体の化学的な性質が酷似しており、有機合成で一般に用いられる方法(TLCなど)では反応追跡が難しい。分光学的手法などを組み合わせ、重水素化反応の多検体連続追跡法の開発を進める。 【3】重水素化アルキルスルホニウム塩を用いた重アルキル化法を基盤とする、重医薬品の開発研究に取り組む。2023年度、重エチル基も重医薬品の置換基として機能することを示した。そこで、エチル基などアルキル鎖がCYP代謝部位となることが示唆される医薬品の重水素化分子を合成し、肝ミクロソーム中の濃度推移やラットへ経口投与後の血漿中濃度推移を測定することで、重アルキル化によるCYP代謝への影響を精査する。
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