研究課題
特別研究員奨励費
社会性障害を主症状とする自閉症の発症に強く関連することが示唆されている3q29領域欠失に注目し、3q29領域に相同な領域に欠失を導入したマウスにおいて、社会行動時の聴覚野における少数の細胞の過剰な活性化を見出しており、聴覚野の一部の細胞と社会行動異常との関連が示唆されている。本研究では、聴覚野の細胞を単一細胞レベルで解析し、社会性制御に重要な神経細胞の特性と、3q29欠失が関わる分子病態を解明する。また、明らかにした社会性制御を担う神経細胞種をiPS細胞から誘導する技術を開発し、マウスで解明した分子病態の妥当性を明らかにすると同時に、治療薬開発に向けた化合物スクリーニング系構築への礎を築く。
自閉スペクトラム症(自閉症)の主症状である社会性障害の分子病態は不明である。ヒト染色体3q29領域欠失は、自閉症に対するオッズ比(疾患の罹りやすさ)が約20と高く、社会性障害の発症との関連が強く示唆されるゲノム変異の一つである。これまでに当研究室では、ヒト3q29領域と相同な領域に欠失を導入した疾患モデルマウス(3q29マウス)の神経活動を全脳レベルで解析し、社会行動刺激により、3q29マウス聴覚野において、少数の神経細胞が過剰に活性化していることを明らかにし、この少数の神経細胞集団と社会性障害が関連する可能性を見出してきた。そこで本年度は、3q29マウス聴覚野において社会行動時に過剰に活性化する少数の神経細胞集団が社会性制御に重要であることを明らかにすることを目的に研究を行い、主に以下の結果を得た。①hM4Di-DREADD法を用いて、社会行動刺激により活性化する聴覚野神経細胞の神経活動を抑制したところ、野生型マウスでは社会行動量に変化が見られなかった一方で、3q29マウスでは有意に社会行動量が増加し、その行動量は野生型マウスと同程度であった。②hM3Dq-DREADD法を用いて、野生型マウスの聴覚野興奮性神経細胞を活性化したところ、野生型マウスの社会行動量は有意に低下した。以上の結果から、3q29マウスの聴覚野において社会行動刺激により活性化する神経細胞集団は、社会性制御に関与する集団である可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
3q29マウスの聴覚野において、社会行動刺激により活性化する少数の神経細胞集団が、同マウスにおける社会行動障害に関与する可能性を示す実験データを得ることができたため。
今後は遺伝子発現パターン解析や、神経投射パターン解析などの手法を用いて、本年度の実験で見出した社会行動障害に関与する神経細胞集団の特性を明らかにしていく予定である。
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Biological & Pharmaceutical Bulletin
巻: 47 号: 2 ページ: 478-485
10.1248/bpb.b23-00898