研究課題/領域番号 |
23KJ1557
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分07010:理論経済学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
三井 健太郎 神戸大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
2023年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
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キーワード | シグナリング / 経済指標 / オッズ / 行動経済学 / 群衆行動 / 公的情報 / 私的情報 / 分離均衡 |
研究開始時の研究の概要 |
Parimutuel方式とは、ある事象の結果の予想を投票によって事前に表明し、締切後に予想毎に全体の得票率から1票分の配分を決め、予想が的中した分の票から分配を得る原始的な配分方式のことです。 Parimutuel方式の下では結果が決まる前までの得票率は観察できますが、投票終了後の最終的な得票率は観察できません。従って、観察可能な得票率から自身の予想と行動と相手の予想・行動によって決定する最終的な得票率を予想して行動することが必要になります。こうした特徴を持つ市場で、私的な予想と市場内の行動の関連性を理論分析することを通して、市場の中で観測できる指標が正しく人々の予想を反映できるかを研究します。
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研究実績の概要 |
本研究の基本モデルでは、先手が私的な予想を受け取って投票を行い、私的な予想を持たない後手が先手の投票を観察することで情報を獲得して投票する原始的な賭けの市場を分析している。このモデルの均衡では、オッズは人々の予想と一致するが、先手と後手が全く同じ内容の賭けをしてしまうため、常にパイを等分する、という結果が生じる。 令和5年度については、①後手に対しても私的情報を与えたモデルの均衡の拡張・導出②均衡の特性から得られる結論のまとめを行った。これまでの研究成果をまとめて③国内での学会報告を3回実施し、コメントを基に論文投稿の準備を行った。 ①②:研究の実施計画提出段階の計算に一部不備があったため再計算を行い再度証明した。均衡における利益も綺麗な式に直すことに成功している。結論は以下の通り。 モデルから導出された均衡では、各プレーヤーが当選する確率が高いと思う候補に対してより多くの票を集中させようとする行動を選択する。結果として「オッズは人々の予想と整合的である(人気の高い候補は、当選確率が高いと予想しているから人気がある)」均衡として結論付けることができている。ただし、基本モデルと異なり、オッズは人々の予想と一致することはないことが明らかになった。この乖離度合いについてはそれぞれの私的な予想の分布の散らばり具合に依存する。利益配分から見た均衡の特性としては、先手と後手との間に不公平性のある利益分配が実現することが分かっている。具体的には、「先手は得をしない(ゲームの期待収入がゲームの投入費用を上回ることがない)こと」「後手は損をしない(ゲームの期待収入がゲーム開始前の費用を下回ることがない)こと」という特性である。 先手が投票行動を調整し、オッズを上手く操作して後の人の投票行動を誘導する行動を考慮しても、市場内部で決定するオッズは人々の予想と整合的であることが理論的に明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究を計画する段階で令和5年度までに最低限終了していたいと考えていた研究内容が全て達成できているため、「(3)やや遅れている。」「(4)遅れている。」の2つの評価には該当しないと考えている。一方、論文の投稿のための準備がもう少し必要であること、後述する令和6年度の研究の拡張案が複数存在することから「(1)当初の計画以上に進展している。」にはやや及ばないと考えたため、「(2)おおむね順調に進展している。」が該当すると考えた。 令和4年度の研究として計画していた後手に私的情報がないケースの場合の拡張については滞りなく進行し、令和5年度に計画していた後手にも私的情報を与える設定への拡張についてもまとまった研究成果を得ることができた。 モデルの拡張を行うことによって、直感的な説明が難しい難解な均衡になり、結果を説明するために情報構造を特定しなければならなくなる可能性を懸念していたが、それらについては全く問題なく一般的で明瞭な結論を得ることができており、想定していた研究計画の中では大分良い状態にいると考えている。拡張を行った場合の均衡の精緻化・一括均衡等いくらか課題は残されているものの、今後の研究のベースとなる結果を確保することができた。これまでの研究成果を一度区切って、論文として報告するタイミングとして丁度よいと考え、論文の作成を行っている。一通りまとめることができたが、英語の表現の修正・全体の論文の構成の修正を行う必要があるため、多少時間が必要だと予想される。 論文の作成と共に、得られた結果を基に次の研究段階への移行を考えている。比較しやすい綺麗でまとまった研究成果を得ることができたため、①モデルの拡張・一般化②利害対立構造の変更③他の制度との比較検証等の選択肢が残り、絞り切れていない。令和7年以降の研究の方向性を考えながら優先順位を決めて次の研究を選択したい。
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今後の研究の推進方策 |
先述の通り、研究の方向性としては①モデルの拡張・一般化②利害対立構造の変更③他の制度との比較検証を考えている。 ①については[1a]効用関数の一般化・一括均衡の導出[1b]先手と同時に行動する外生プレーヤーの導入(外生プレーヤーの投票と同時に先手の投票がオッズに反映される仕組みを利用し、後手に与える情報を調整する行動の分析)[1c]後手に複数プレーヤーを導入し、後手間の読み合いを入れるといった案が挙げられる。いずれについても、Parimutuel方式特有の計算の難しさが課題である。計算については設定の部分的な単純化、情報構造の特定で対応するといった対策が考えられる。 ②Parimutuel市場の設定と似ていて、利害対立の異なる市場としてはクラウドファンディングのような市場が考えられる。プロジェクトが上手くいくと予想される場合、同一候補に対して投票をさせることに互恵関係が起こりうる。クラウドファンディング市場のルールや事例を調査し、モデル化を行いたい。 ③その他の市場としては、議決権の伴う株式市場のような複数の価値を持つ場合の市場の分析、複数回開催されるオークション市場といった市場が候補である。分析対象は異なるものの、本質的な問いは大きく変わらないためこれまでの研究の蓄積を活用することができると予想される。現実をそのまま描写するとモデルが複雑化すると予想されるため、必要に応じて設定を単純化する必要があると考えられる。単純なモデルを解いた後で現実の設定に近付ける、といったアプローチを考えている。 研究の重要性・将来性を考えながら進める。3つ同時はおそらく無理があるため、2つ程度に絞って研究を進める。同時に、既存の研究成果をまとめて論文を投稿する。証明の最終確認・論文の構成・英語の表現の修正を行った上で、査読付き論文に投稿する。投稿後は学会や学内での報告を実施する。
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