研究課題/領域番号 |
23KJ1577
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分45040:生態学および環境学関連
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
上原 春香 奈良女子大学, 人間文化総合科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 間接効果 / 学習 / 捕食 / 被食 / ハシボソガラス / スクミリンゴガイ |
研究開始時の研究の概要 |
捕食者が駆動する間接効果には、捕食による被食者の密度変化が関わる密度媒介型(DMII)と、被食者の行動・形態といった特性変化が関わる形質媒介型(TMII)の2種が存在する。摂食や被食回避にまつわる学習行動が間接効果に果たす役割については、研究例が非常に少ない。本研究では、ハシボソガラス-スクミリンゴガイ-イネという三者系を用いて、水田生態系における学習の連鎖によって引き起こされる2種の間接効果の重要性を解明する。
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研究実績の概要 |
2023年度は、本研究の目的である「ハシボソガラスとスクミリンゴガイによる学習の連鎖が引き起こす間接効果の重要性を明らかにする」ことを目指し、愛媛県松山市と香川県丸亀市を中心に野外調査を行った。愛媛県松山市の複数の水田において、カラスによって捕食された被食貝と水田内の生貝を定量的に調査し、カラスによるスクミリンゴガイの捕食率を算出した。そして、この捕食率を3段階(高、低、捕食なし)に分けて評価し、各水田においてカラスに対する貝の逃避反応である潜土をしている個体の割合を比較した。その結果、カラスによる捕食率が高いほど潜土個体の割合が高いことが分かった。この結果とすでに実施したメソコスム実験で得られた結果を合わせることで、学習の連鎖が水田生態系における形質媒介型の間接効果を引き起こすことを示唆することができた。また、カラスによるスクミリンゴガイの捕食行動と学習の関係を調べるため、捕食行動が他の地域と異なる香川県丸亀市でカラスの貝落とし行動を調査した。カラスは、スクミリンゴガイを落とす高さを落下地点の基盤の硬さに応じて適応的に調節していることが分かった。カラスの貝捕食には学習が関与している可能性が考えられた。本研究の内容に基づいた論文を執筆し、国際誌に受理された。また、間接効果に関する論文を国際誌に1本投稿した。加えて、これまでの成果を基に、国際学会である東アジア生態学連合(EAFES)大会や国内学会である日本生態学会大会などで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野外調査において、カラスによる捕食はスクミリンゴガイの貝密度減少と逃避行動(潜土)の強化をもたらすことが示唆された。前者は、カラスによる直接的な貝の捕食が個体数を減らし、イネへの食害を軽減する可能性を示唆している。後者は、貝の逃避行動により誘導される形質媒介型の間接効果の重要性を明らかにするための重要な進展である。従って、研究課題は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
野外においてスクミリンゴガイの行動観察を行ったところ、捕食者となるカラスがいる地域では、予想以上にスクミリンゴガイの逃避行動が強かった。そこで、当初の計画のように密度媒介型と形質媒介型の両方の間接効果を評価するのではなく、野外でのスクミリンゴガイによる捕食者回避学習の実験を新たに加え、逃避行動により誘導される形質媒介型の間接効果の強度を量的に評価する実験計画に変更する。この計画の変更により、本研究課題の目的である「水田生態系における異種間の学習の連鎖によって引き起こされる間接効果の重要性の解明」がより具体的に達成されることが期待される。
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