研究課題/領域番号 |
23KJ1607
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分28040:ナノバイオサイエンス関連
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
押味 佳裕 岡山大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,800千円 (直接経費: 2,800千円)
2024年度: 1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
2023年度: 1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
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キーワード | 蛍光ナノダイヤモンド / NVセンター / 光検出磁気共鳴 / スピン緩和時間 / 細胞内温度計測 / 量子バイオセンシング |
研究開始時の研究の概要 |
細胞の生理現象は生体分子作用機序と個々の生化学反応に支配されており、細胞内温度が生理現象に密接な関わりを持つと考えられる。本研究では生化学反応の場となる細胞質の温度に注目する。生体ナノ量子センサとして蛍光ナノダイヤモンドを利用し、独自開発したバイオ分析用アンテナチップおよびナノスケール温度制御システムを組み合わせて、細胞内温度モニタリングとミトコンドリア温度を維持した細胞質冷却を実施する。細胞質冷却によってもたらされる生理現象(形態変化、細胞死、代謝活性)に関係する生体分子の変化を一細胞レベルで解析・定量化し、さらに細胞内温度情報と関係づけることで、細胞内温度の生理的学的意義の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
共焦点顕微鏡による生細胞の観察と細胞内温度の局所変調を実現するための光学系の整備を実施した。具体的には、まず高速レーザ走査システムを構築した。先行研究を参考に10ー20マイクロメートル四方(~1細胞の大きさ)の観察領域・同解像度の条件下で従来の10倍以上の走査速度を実現できるようになった。さらに、青色レーザー(488 nm)を自作の共焦点顕微鏡に組み込むことにより、細胞内ミトコンドリアと蛍光ナノダイヤモンド(ND)の共焦点画像を同時に高速で取得できるシステムを導入した。細胞温度変調技術としては、任意の形状で局所的に加熱するために、近赤外レーザー(976 nm)とデジタルマイクロミラーデバイスを導入した。生細胞を用いた評価実験に向けて、現在それらの性能評価を実施しつつ最適化を行なっている。 以上の光学系の整備とは別に、測定中に生じ得るマイクロ波による発熱の低減も試みた。既存のマイクロ波アンテナについてはアンテナ回路の修正を行い、さらに3D共振器アンテナの使用も提案した。これらの成果は、発熱に由来する生細胞への影響やアンテナチップの歪み等を減らすことができるため、蛍光ND細胞温度計測において重要な知見となった。研究成果は招待講演および国内学会で成果報告を行った。また、従来の蛍光NDが示す温度感度の改善も課題として見出した。新たに開発した高品質蛍光ND(特許出願済)は細胞内で高輝度かつ高感度測定を可能とするため、自家蛍光を発する細胞内において微小な温度変化を高感度に読み取ることができるものとして期待される。研究成果は国内外の学会で報告しており、次年度には学術論文として報告する予定である。後半の研究については当初の研究計画にはなかったものの、現在の細胞内温度計測研究、量子測定技術を発展させる上で極めて重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
細胞内蛍光NDおよびミトコンドリアの共焦点観察のために構築された多色高速スキャンシステム、さらに細胞温度変調技術として近赤外レーザを含む光学システムとペルチエデバイスを用いた測定系を目指しており、システム構築に関してはおおむね当初の研究計画通りと言える。 上記研究の取り組みの中で、1.マイクロ波照射機構の検討と2.高品質蛍光NDの導入、については当初の研究計画にはなかったものの、それらの学術的重要性から優先して取り組むべき課題となったものである。まず項目1のマイクロ波照射機構の検討については、マイクロ波入力による発熱を本研究の課題として見出し、その対策に迅速に取り組んだ。研究成果は招待講演等を通じて当該分野で非常に高い評価を得ており、生物系研究者との共同研究の契機にもなっている。次年度には学術論文として報告することも予定している。次に項目2に関して、バルク結晶の温度感度(~0.01℃)と比較すると、現状の蛍光NDの感度が1℃~2℃であり、100倍以上の開きがあった。細胞内温度計測研究においては細胞内の微小な温度変化を正確に把握できる感度を蛍光NDが有している必要がある。そのため、本研究の過程で発明された高品質蛍光NDは、バルク結晶の限界感度に追従する性能を誇り、従来の蛍光NDを超えた超高感度温度計測が期待できる。この成果については既に特許を取得しており、論文投稿直前の段階まで到達している。以上の研究成果を考慮して上記評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
生細胞を用いた細胞内温度変調を実施し評価実験を実施する。具体的には、ペルチエデバイスによる培養細胞の全体冷却を行いながら近赤外レーザー(976 nm)とデジタルマイクロミラーデバイスを使って特定の細胞内小器官を局所的に加熱する。細胞内温度変調中に蛍光NDを用いてリアルタイムで温度計測し、細胞内での温度分布を可視化する。これにより、温度変調下での生理現象の変化(形態変化、細胞死、代謝活性など)と細胞内温度との関連性を明らかにする。 論文投稿直前の段階にある高品質蛍光NDに関する取り組みついては、必要に応じて追加実験を行う可能性がある。現状では、多数の細胞実験評価に足りるだけの高品質蛍光NDの分量を確保することが難しいため、本研究遂行にあたっては従来の蛍光NDを使用して細胞内計測を実施する。アンテナ照射機構に関する取り組みについては、既に重要な実験データを取り揃えており、次年度内での論文投稿を目指す。
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