研究課題/領域番号 |
23KJ1609
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分15020:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する実験
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
中西 史美 岡山大学, 環境生命自然科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,700千円 (直接経費: 2,700千円)
2025年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 超新星ニュートリノ |
研究開始時の研究の概要 |
超新星爆発は大質量星が進化の最終過程において莫大な重力エネルギーを解放することで爆発する天体現象であり、メカニズム解明にはニュートリノ観測が重要である。ニュートリノは電磁波信号などよりも早くに放出されるため、ニュートリノ観測から得られる位置情報を他観測と共有し相関観測を行えば、超新星天体の質量などの情報が引き出せる。 本研究では、スーパーカミオカンデにおいて1分以内に超新星方向を決定する解析手法を開発し、相関観測を可能にする。また、イベント到来時間やエネルギースペクトルなどを得るためのオフライン解析手法を構築し、超新星ニュートリノを観測した際は本解析手法を用いて超新星天体の質量や半径を特定する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、近傍で超新星爆発が起こった時に、スーパーカミオカンデ(SK)でのニュートリノ観測から最大限の物理学的・天文学的な成果を引き出すことである。SKでは2020年より、超純水に硫酸ガドリニウムを溶解させるSK-Gd実験が開始された。SK-Gd実験では、中性子がGdに捕獲されて生成されるガンマ線を高効率で検出することで中性子の同定が可能になった。これにより、逆ベータ崩壊反応(IBD)と、ニュートリノと電子の弾性散乱(ES)を高精度で弁別することができる。ES事象は元のニュートリノの到来方向と強い相関関係を持っているため、IBD事象を取り除きES事象を用いることで超新星爆発天体の方向決定精度を向上させることができる。 博士後期課程の1年次は、SKにおいて現在稼働中の超新星モニターの改良を行った。超新星モニターでは、ES事象とIBD事象を選別し、超新星爆発が起きた際には即時に方向情報を公開する。SKで観測される超新星ニュートリノ事象の約90%がIBD事象であり、これとES事象の識別性能を良くすることが方向決定精度の向上につながる。そこで私は、このモニターで使用されている選別条件を見直すことで事象選別に用いるエネルギー閾値を低くし、より多くの事象を用いて識別性能を向上させることに成功した。現在は、超新星モニターの開発者と協力し、改良の実装に向けた試験を行なっている。 また、博士前期課程ではすべてのニュートリノ事象を取り入れた超新星ニュートリノイベントジェネレータを開発した。このようなイベントジェネレータは他の純水検出器や液体シンチレータ検出器のために開発されたものがいくつか存在するが、超新星ニュートリノと酸素原子核との荷電・中性カレント反応を本格的に導入したのは私が開発したイベントジェネレータが初めてである。よって、この成果をまとめ、論文を執筆し、2024年4月に出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
博士後期課程の1年次では、まず超新星ニュートリノ観測事象の生成シミュレータを完成させ、査読付き英語雑誌で論文を発表した。これを用いることで長時間のシミュレーションが可能となる。博士前期課程ではニュートリノ信号から、高温高密度天体内部での状態方程式が識別できる可能性を示した。今後はこの研究を発展させ、超新星爆発過程の後期に放出されるニュートリノ事象を用いた状態方程式の識別手法を確立する予定である。この研究には上記で示したシミュレータが必要不可欠となる。また、並行してSKに現在搭載されている超新星モニターの改良を行い、方向決定精度向上のためのIBD事象の識別能力の向上に成功した。これは、近傍超新星爆発が起こった際に行う即時解析手法の確立のための1つの成果である。 このように、研究計画に沿って着実に成果を上げられているため、進捗状況は順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
超新星ニュートリノ観測から高温高密度天体内部の状態方程式や親星質量などの情報を引き出すためにはオフラインで保存されたデータの解析手法を確立することが重要である。本年度はこのオフライン解析手法の開発を進める。具体的には、各イベントのエネルギーや時間情報の決定、また超新星ニュートリノ事象の識別手法の開発を行い、爆発から1週間以内に研究結果を外部に提供することを目指す。 また、博士後期課程の1年次からの研究をさらに進め、近傍超新星ニュートリノ観測に向けた中性子同定手法の開発を行う。銀河系内で超新星爆発が起こった場合、約1秒間に数百イベントの超新星ニュートリノが観測されると予想されている。現在SKで広く使われている中性子同定手法はこのような高いレートの場合には対応していないため、独自の中性子同定手法を開発する必要がある。私は博士前期過程から後期過程にかけて、Am/Be線源を用いたSKにおける中性子同定効率の性能評価を行ってきた。よって、今年度はこの研究を発展させ、MeV領域も考慮した中性子同定手法を確立する。 一方、10 Mpc以内の天の川銀河系外の爆発では、SKで予測される超新星ニュートリノ観測期待値は小さいが、爆発頻度は約1年に1度と高い。よって、私はこの10 Mpc以内で起こる超新星爆発に注目し、SK稼働開始 (1996年)から現在 (2024年)までの約28年間に起きた10 Mpc以内の超新星爆発を探し、光学観測で発見された時間情報を用いた超新星ニュートリノ探索を行う。現在は報告されている2008年以降の10 Mpc以内の超新星天体をまとめ、解析に向けた準備を進めている。この解析結果について、2024年夏に開催される国際会議でのポスター発表を予定している。
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