研究課題/領域番号 |
23KJ1628
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分45040:生態学および環境学関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
佐藤 初 広島大学, 統合生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | ニセクロスジギンポ / 共同狩猟 / 共同捕食 / 集団行動 / 協力行動 / Mutualism / 相互利益 |
研究開始時の研究の概要 |
捕食者が集団で獲物を狩る共同捕食(共同狩猟)は、動物における協力行動の例として良く知られている。しかし、共同捕食における個体間協力のメカニズムまで検証した例はほとんどない。本研究課題では、サンゴ礁魚類の1種ニセクロスジギンポが集団で魚の巣を襲撃し親に保護された卵を略奪する「集団卵食行動」をモデルに、独自の水中撮影法と深層学習を用いたトラッキング技術を組み合わせたアプローチから個体レベルでのコスト・ベネフィットの定量化を実現し、個体間協力の維持機構を明らかにする。
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研究実績の概要 |
初年度に実施した研究により、本研究課題の大目的である「魚類の共同捕食における個体間協力の機構(メカニズム)」について、“相互利益 Mutualism”というシンプルな仮説によって説明可能であるという重要な示唆を得ることができた。ここでは、この仮説を想到するに至った研究成果について報告する。 沖縄県瀬底島のサンゴ礁に生息するニセクロスジギンポは、スズメダイ科の巣を襲撃する際に親魚の攻撃を引き付ける"decoy(おとり)"や"watcher(見張り)"と、その隙に巣に侵入する"hider(潜伏)"や"intruder(突入)"など幾つかの異なる行動パターンを組み合わせる役割分担によってスズメダイの巣を巧みに襲撃していることが明らかとなり、これらの観察例を大幅に増やすことができた(成果1)。役割は個体ごとに固定されておらず、1回の襲撃中でも流動的に変わっており、襲撃に成功すると役割に関わらず全個体が十分な卵を捕食することができることを明らかにした(成果2)。さらに、役割分担戦術が発生する要因を検討した結果、集団サイズの大きなニセクロスジギンポが攻撃性の高いターゲットに対して襲撃を試みる状況で、decoy(おとり)が発生しやすいことを明らかにした(成果3)。 以上の結果を統合すると、ニセクロスジギンポの役割分担を伴う集団卵食行動は、コストを伴う役割を即自的に交代するだけでなく、得られた卵を集団内の全個体が分割することで相互に利益的になることが示唆された。したがって、攻撃性が高く襲撃の難しいターゲットを狙う状況ほど、相互協力に基づく役割分担戦術の発生率が高まると考えられる。本研究の成果は、高度な認知能力が必要とされてきた動物の共同狩猟における役割分担が、比較的単純なメカニズムでも生じる可能性があることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である個体間協力メカニズムに関して、有力な仮説を得ることができた。同時に、独自の水中撮影法および深層学習を用いた個体レベルでの行動解析が有効であることも示された。これらの成果の意義については、学術論文での発表(Sato et al. 2024. Journal of Ethology)や、国内学会での高い評価(日本魚類学会最優秀口頭発表賞)などが裏付けている。
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今後の研究の推進方策 |
研究二年目は、すでに獲得している動画データから個体ごとのコスト・ベネフィットを調査する。具体的に、卵食の最中にスズメダイの親魚から受けた個体ごとの攻撃回数およびその結果生じるであろう怪我の個数をコストの指標とし、個体が巣に侵入することができた時間および襲撃後の腹の膨れをベネフィットの指標とする。これにより、ニセクロスジギンポは互いにコストを分散して利益を共有することで相互に利益的になるという相互利益仮説の検証に取り組み、当初の目的に対する結論を求める。加えて、個体識別をおこなっている強みを活かし、本種の集団関係(群れ関係)をネットワーク分析を通して可視化して、協力的な卵食行動が長期間に渡って維持される理由を社会構造の観点から迫る予定である。
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