研究課題/領域番号 |
23KJ1631
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分35030:有機機能材料関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
山中 滉大 広島大学, 先進理工系科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 有機薄膜太陽電池 / 半導体ポリマー / 高結晶性 / 低コスト化 / 非フラーレン素子 / 新材料開発 |
研究開始時の研究の概要 |
『塗って作れる』次世代の太陽電池である有機薄膜太陽電池(OPV)は、カーボンニュートラル実現に向けて重要な太陽光発電技術として近年注目されています。OPVの実用化に向けて、エネルギー変換効率の向上が大きな課題の一つです。そのためには、発電層に用いるp型材料とn型材料を発電層中でうまく結晶化させることが重要です。先行研究から、p型およびn型材料が高い結晶状態を形成するためには、発電材料の凝集性を向上させることが重要であることがわかっています。本研究では、高結晶性チアゾロチアゾール系ポリマーに対して、凝集性だけでなくエネルギー準位、溶解性等を制御し、OPVの更なる高効率化を目指す。
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研究実績の概要 |
『テーマ1: ポリマー側鎖の設計』におけるアシル基が導入されたポリマーの合成については、反応性が高いアシル基を化合物に導入し保持するために3種類の合成経路を検討した。その結果として、アシル基が導入されたモノマーユニットまで合成することができた。これまでに、アシル基が導入されたポリマーの数は限られており、その中でも、アシル基にアルキル基が導入されたポリマーは、その合成の難しさからほとんどない。そのため、今回、アシル基を有するビルディングユニットの合成に成功したことは、これからの分子設計に新たな選択肢をもたらすことができると考える。 『テーマ2: ポリマー主鎖の設計』については、先行研究で開発したエステル基を有するチアゾロチアゾールモノマーと、チオフェンやチエノチオフェンを共重合したポリマーPTz3TEとPTzTTTEを新たに合成した。特にPTz3TEを用いたOPV素子において、15%に迫るエネルギー変換効率を示した。さらには、私は、OPVの実用化の重要なPTz3TEに用いるモノマー合成方法を再度検討することで、少合成段階かつ高価なシリカゲルカラムを一切用いずにポリマー合成できる手法を開発した。OPVの実用化に向けて、発電材料の高コスト化は、重要なボトルネックとなっているため、PTz3TEは従来のベンチマーク材料と同程度のOPV特性を示しながら、低コスト化が達成できることが期待できる。 しかし、テーマ2で合成したPTz3TEの問題としては大きく2点わかっている。1つ目は、高結晶性ポリマーの中では比較的に高いPCEを示すが、ベンチマーク材料と比較すると、低い性能である。2つ目の問題点は、PTz3TEが低沸点かつ毒性の高いクロロホルムにしか溶解しないことである。これら問題を解決するために、OPV素子作製条件の最適化や他の分子設計し、新規ポリマーを合成する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特別研究員としての活動期間中、私は高結晶性チアゾロチアゾール系ポリマーの開発と有機薄膜太陽電池(OPV)への応用に取り組み、順調に進展している。その理由を以下に示す。 『テーマ1: ポリマー側鎖の設計』では、アシル基が導入されたポリマーの合成に成功し、これまでに限られた数しか報告されていないアルキル基が導入されたアシル基を有するポリマーの新しい合成経路を確立した。反応性の高いアシル基を保持しながら合成するために3種類の経路を検討し、結果的にアシル基を有するモノマーユニットを得ることができたことは、分子設計に新たな選択肢を提供する重要な成果であると考える。現段階では収率が低いことが課題だが、今後の収率改善の余地はある。 『テーマ2: ポリマー主鎖の設計』では、エステル基を有するチアゾロチアゾールモノマーとチオフェン、チエノチオフェンを共重合したポリマーPTz3TEとPTzTTTEを新たに合成した。特にPTz3TEは、室温の有機溶媒にも溶解し、非フラーレン材料をn型材料として用いたOPV素子において15%に迫るエネルギー変換効率を示した。さらに、少ない合成段階で高価なシリカゲルカラムを一切用いずにポリマー合成できる手法を開発し、実用化に向けた低コスト化が期待できる。 さらに、PTz3TEのアルキル側鎖の分岐位置を変更したPTz3TE-5を合成し、OPV特性の顕著な低下が見られたことから、アルキル側鎖の設計がOPV特性に与える影響について新たな知見が得られた。これは今後の分子設計において、OPVの高効率化に適したアルキル側鎖の設計指針を提案するための重要なデータであると考える。 また、チアゾロチアゾール系ポリマー以外の高結晶性ポリマーについても研究を進め、これらの成果は学会誌に共著者として発表されています。
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今後の研究の推進方策 |
『テーマ1: ポリマー側鎖の設計』について、アシル基が導入されたポリマーの合成に成功したものの、現段階では合成収率が低いため、各ステップの収率向上が最優先課題である。また、反応副生成物の除去や生成物の精製方法についても再検討し、より効率的な合成プロセスも開発を目指す。収率改善後は、得られたモノマーを用いて高分子化し、太陽電池材料としての性能評価を進める。具体的には、ポリマーの結晶性、光学特性、電子特性などの基礎物性を詳細に解析し、OPVへ応用する。また、側鎖の構造や配置を変更することで、ポリマーの物性やOPV特性への影響を系統的に調査する。 『テーマ2: ポリマー主鎖の設計』について、PTz3TEの合成では、高価なシリカゲルカラムを使用せずにポリマーを合成する手法を開発したが、モノマー純度の向上が必要である。まず、モノマー合成の際の反応条件や精製方法を再検討し、副反応を抑制して純度を高める手法を模索する。 次に、PTz3TEの溶解性の問題を解決するために、側鎖を調整する。低毒性かつ高沸点の溶媒に溶解するようなポリマーを設計するために、側鎖の構造や導入位置を変更し、高い溶解性と高いOPV特性の両立を目指す。 また、PTz3TE-5に関する研究から得られた知見をもとに、アルキル側鎖の位置や種類がOPV特性に与える影響を詳細に解析する。アルキル側鎖の分岐位置を変更することで、分子の立体構造や結晶性に及ぼす影響を評価し、高効率なOPV材料を設計するための指針の提案を目指す。また、理論計算やシミュレーションなどの計算化学等も取り入れ、分子レベルでの挙動を予測しながら最適な構造を導き出したい。 以上の研究方針に基づき、引き続き高結晶性ポリマーの開発とOPV応用研究を進め、効率的かつ実用的な太陽電池材料の実現を目指す。
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