研究課題/領域番号 |
23KJ1658
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分43010:分子生物学関連
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
菊田 浩希 山口大学, 大学院創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | イントロンによる発現増強 / 遺伝子発現抑制 / 発現抑制配列 / 酵母 / コドン最適化 |
研究開始時の研究の概要 |
イントロンによる発現増強(IME)が、単なる増強ではなく、イントロンの存在によって特異的な塩基配列による発現抑制を解除する現象であるという新たな概念からIME機構の解明を目指す。 コドンが異なる2つのルシフェラーゼ遺伝子のキメラ解析及びランダム変異解析を行い、発現抑制及びIMEに関与する遺伝子上の塩基配列を同定した。また、酵母Sccharomyces cerevisiaeの破壊株セットを用いて網羅的に発現抑制に関与するタンパク質等を同定した。それらのタンパク質の既知機能から、抑制機構の解析を進めた。
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研究実績の概要 |
イントロンはタンパク質発現を増強するIntorn-Mediated Enhancement(IME)と呼ばれる機能を持つ。これまでに、Saccharomyces cerevisiaeにおいて、塩基配列が異なることで、IME応答性が異なる二つのルシフェラーゼ遺伝子yCLucとhCLucを利用して、IMEを受けるyCLucが、100~150 bpの塩基配列依存的に発現抑制を受けていたことを明らかにした。また、IMEを受ける別のCDSである酵母コドン最適化グルコアミラーゼCDS(yRoGLU1)も、40-48 bpの塩基配列依存的に発現抑制を受けていることが分かった。今年度は、抑制に関与する塩基配列を同定する解析を進めた。そこで、yRoGLU1の抑制に関与する40~48 bpの9塩基をIMEが起きないように変異を与えたyRoGLU1(yRoGLU1mc840-48)のCDS領域外に挿入してアミノ酸配列に制限されない変異を与えれるかを調べた。その結果、5’-UTRへの挿入で発現抑制効果が見られ、その抑制はイントロンの挿入により解除できた。これにより、各塩基のアデニンへのへの一定の変異や削除解析も可能になり、最終的に、TCTTの4塩基のみで発現抑制が起きることが分かった。yCLucでも100~150 bpに存在するTCTTに変異を与えることで抑制が解除できた。これらの結果から、IMEは単なる増強ではなく、プロモーター近位に存在するTCTTによる発現抑制のイントロンによる解除であると論文として報告した。 さらに、これまでにゲノムワイドスクリーニングで同定した抑制に関与する14遺伝子と相互作用をする遺伝子を検索し、それらの破壊株で抑制効果を調べた。その結果、新たに、RRP6、MED1、NUP84が抑制に関与していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、IMEを受ける遺伝子に生じていた発現抑制に関与する塩基配列の特定とその抑制機構の解明を目指しており、概ね研究計画に沿って順調に研究が進んでいると考えている。 発現抑制に関与する塩基配列の解析に関する研究では、発現抑制に関与する領域を遺伝子全合成によりアミノ酸配列が変化しないようにランダムに改変し、ランダム変異体の配列と活性を機械学習により分析した。その結果、特定のチミンが発現抑制に関与していることが分かった。しかし、抑制配列の同定までは至れなかった。別のアプローチとして、抑制配列をCDS領域外に付加したところ、抑制効果とイントロンによる解除が見られた。これにより、アミノ酸に縛られない解析が可能となり、アデニンへの一定の変異や削除解析することで、TCTTの4塩基のみで発現抑制が起きると明らかにした。また、このTCTTによる発現抑制はイントロンを挿入することで回避できた。さらに、プロモーター近位にTCTTが複数存在し、イントロンを持つ酵母ネイティブ遺伝子を探索して、TCTTとイントロンの効果を調べることで、TCTTによる抑制をイントロンによって解除しているネイティブ遺伝子UBC4、MPT5を特定した。 TCTTによる抑制機構の解析では、これまでに抑制に関与すると示した14遺伝子と相互作用する遺伝子を解析することで、新たに、RRP6、MED1、NUP84が抑制に関与していることを明らかにした。これらの17遺伝子の既知機能から、抑制には、核内エキソソームによるncRNAの分解機構とRNAポリメラーゼⅡ複合体の形態、核膜孔によるmRNA輸送の制御が関与していると示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、TCTTによる抑制機構とイントロンによる抑制解除機構の解明及び、TCTTとイントロンによる遺伝子発現調節の生理学的意味の特定を目指す。 TCTTによる抑制機構とイントロンによる抑制解除機構の解析に関する研究では、これまで、主に、核内エキソソームに関与するLrp1, Rrp6, Sto1とyCLuc mRNAの相互作用の調査を試みてきたが、Lrp1, Rrp6, Sto1の発現量もしくはタンパク質の安定性に関する問題から、抗体を用いた検知が難航していた。そこで、今後は研究室で開発した発現量を増強するプラスミドや、抗体による認識力を増強したタグ配列を使用して研究を進めていく予定である。また、別のアプローチとして、RNAポリメラーゼⅡのC末端領域のリン酸化による抑制効果への影響や、抑制に関与するキネトコア遺伝子破壊によるプラスミドの安定性への影響、抑制効果によるyCLuc mRNA輸送への影響等も調べることで、TCTTによる抑制機構とイントロンによる抑制解除機構の解明を目指す。 TCTTとイントロンによる遺伝子発現調節の生理学的意味の特定に関する研究では、これまで、抑制に関与する遺伝子を破壊したタンパク質高発現株で、細胞増殖速度への影響が示唆されてきた。そこで、遺伝子破壊による影響を考慮しなくてよい実験系を獲得し、TCTTとイントロンによる遺伝子発現調節と細胞増殖制御の相互関係を調べる予定である。また、抑制関連遺伝子にはヒトまで保存されているものがあった。そこで、TCTTによる抑制機構とイントロンによる抑制解除機構の保存性を調べるために、ヒト培養細胞において、イントロンによる発現増強を示すイントロンとCDSの組み合わせを探索し、解析していく予定である。
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