研究課題/領域番号 |
23KJ1687
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分02060:言語学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森竹 希望 九州大学, 人文科学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 生成文法 / 格 / 名詞句認可 / 一致現象 / 比較統語論 / 素性 / フェイズ主要部 |
研究開始時の研究の概要 |
生成文法ではChomsky (1981)以降、英語を中心とした議論から、生起可能な名詞句(NP)は主格や対格などの格を持つNPに限られると考えられてきた。しかし、日本語やトルコ語、更に英語においてさえも、NPが(i)元位置に留まる場合、そして(ii)移動して焦点や話題の解釈を受ける場合は、格を持たずとも生起可能な事実が観察される。本研究は、(i)、(ii)の経験的事実を踏まえ、格だけでなく統語的位置や談話的要因もNPの分布に密接に関係していることを導く。また、先行研究では説明できていない、(i)、(ii) の経験的事実に対して統一的に説明を与えられる文法理論を完成させることを目指す研究である。
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研究実績の概要 |
本研究は、名詞句 (NP) の分布を制限する条件を通言語的観点から明らかにし、より説明力の高い文法理論構築を行うことを目指し、生成文法で従来採用されてきた格を持つ名詞句のみが文中に生起できるという格フィルターだけではNPの分布を包括的に説明するのに不十分であることを明らかにし、コピー関係の構築の必要性の有無と、そのコピー形成のための必要条件という新たな観点からNPの分布を制限する条件の解明を試みた。 初年度である2023年度は、英語だけでなく、日本語、トルコ語、韓国語等、顕在的な格マーカーの具現化が随意的な場合がある言語に焦点を当てつつ、2種類の名詞句認可条件を新たに提唱することで、格を持つ名詞句だけでなく、格を持たない名詞句の分布も説明した。具体的には、格フィルターを連鎖の条件に還元したChomsky (1981, 1986) の洞察に加え、移動した名詞句はコピー形成 (つまり連鎖) の形成が必要であるが、移動しない名詞句はその必要がないことを鑑み、(i) 移動した名詞句は、それが持つ少なくとも一つの未指定素性への値付与があれば認可される、(ii) 移動しない名詞句は未指定素性への値付与の有無に関わらず認可される、という2種類の名詞句認可条件を提案した。この提案した2種類の名詞句認可条件に基づき、英語、日本語、トルコ語、韓国語の様々な事例における格を持つ名詞句のみならず、格を持たない名詞句の分布も統一的に説明できる可能性を追求した。さらに、大人の言語だけでなく、子供の言語 (英語、日本語) における名詞句の分布に対しても本研究の提案で説明できる可能性を示した。また、格付与メカニズムに関しても探究し、phi素性一致を持つ言語とそうでない言語間では、格付与が異なる一致メカニズムを通して行われる可能性を指摘し、そのパラメーターはphase主要部の素性に還元されると提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来は格を持つ名詞句のみが文中に生起可能だと言われてきたが、英語、日本語、トルコ語、韓国語の研究、さらに子どもの英語や日本語等の研究を通して、格を持たない名詞句も (i) 移動し談話の影響を受ける場合、(ii) 移動しない場合は格を持つ名詞句と同様に認可されるという分析を提出し、学会発表及び論文の執筆を行なった。さらに、英語のようなphi素性一致を持つ言語と日本語のようなphi素性一致を持たない言語で用いられる一致システムには異なる方向性が見られることを主張し、その違いはphase主要部の素性の違いとそれに基づくパラメーターに起因すると提案し、学会発表を行なっただけでなく、上記の名詞句認可に関する内容と併せて博士論文に纏めた。
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今後の研究の推進方策 |
2年目にあたる2024年度は、言語横断的に見られる属格主語の分布及びその生起位置を調査し、属格を認可するメカニズムの精緻化を目指す。従来、日本語の属格主語は名詞補部節や関係節など名詞が補部にとる節でのみ観察されると言われてきたが、熊本方言や長崎方言、また子供の英語や日本語でも主節で属格主語が観察されることが報告されている。そして、属格主語は日本語では動詞句内部に留まる分析が一般的ではあるが、トルコ語などでは動詞句の外に移動している可能性も指摘されている。Baker and Vinokurova (2010) やBaker (2015) において指摘された格付与メカニズムにはパラメーターが存在する可能性を手がかりとして、日本語やトルコ語では属格主語の認可方法が違うことを明らかにし、その違いが属格主語の生起位置にも違いを及ぼしていることを明らかにする。さらに、phase主要部の素性の違いにも着目し、子供の英語や日本語で見られる主節に表出する属格主語も単なる誤りではなく、統語的に説明できる可能性を追求していく予定である。 また、属格主語に限らず格全般に関する研究も並行して推進し、格研究のさらなる精緻化を目指していく。
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