研究課題/領域番号 |
23KJ1716
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分28050:ナノマイクロシステム関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
根北 翔 九州大学, 総合理工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,700千円 (直接経費: 2,700千円)
2025年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | カソードルミネセンス / 走査透過電子顕微鏡 / その場観察 / 電子エネルギー損失分光 / シンチレータ / キャリアダイナミクス |
研究開始時の研究の概要 |
走査透過電子顕微鏡(STEM)の撮像時間は高速カメラを搭載した通常の透過電子顕微鏡に劣るため、動的観察には不向きである。STEM検出器を構成するシンチレータの蛍光寿命(数10 ナノ秒)はSTEM検出の律速過程の一つである。本研究では、高速発光、且つ高発光効率を有する物質を創製し、従来のシンチレータと代替することでSTEMの時間分解能の向上を図る。本研究の完遂により高速STEMが実現すると、加熱、電圧印加時などにおける材料のダイナミクスを実際にナノスケールで動的観察できるようになる。このインパクトは、これまで経験則やシミュレーションに頼っていた材料開発のアプローチに革新をもたらすと見通される。
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研究実績の概要 |
初年度では、高速カソードルミネセンスを示すCsPbBr3の発光効率の向上を計画していたが、CsPbBr3を数nmサイズに形態制御して周囲をCs4PbBr6でパッシベーションすることによって、純粋なCsPbBr3と比較してピーク強度15倍の発光効率を引き出すことに成功した。また、この複合材料の蛍光寿命はサブナノ秒であり、さらに、純粋なCsPbBr3と同等の高速発光であることを確認した。加えて、電子エネルギー損失分光と電子回折マッピングの実験結果から、当該材料の発光メカニズムの解明に至った。上記のように、新たに開発した複合材料を走査透過電子顕微鏡装置の従来シンチレータと代替することで、その検出速度を数ミリ秒まで引き上げることは現実的に可能であると示唆される。当初定めた初年度の研究計画に相当する上記の成果を初年度の8月下旬までに挙げることができたため、筆者は第2年度以降に実施予定であった、電子顕微鏡を用いた高速その場観察のための観察対象の選定をすでに開始しており、下記の課題を主な対象として研究を遂行している。1.アモルファス酸化亜鉛ナノシートの結晶化過程解明に向けたその場加熱観察:ナノシートの結晶化過程をナノスケールでかつ高時間分解能で観察するために、筆者は加熱ホルダーの操作方法を修得し、汎用TEM観察における時間分解能の限界を確認した。2.フレキシブルナノ酸化物半導体材料の湾曲部の局所物性評価と局所構造解析:ナノ酸化物は、他の材料と比較して圧倒的に耐電子線性に乏しい。汎用的な電子顕微鏡観察法により当該試料を観察したところ、試料の一部が破壊されるといった挙動が実測された。上記の結果を踏まえて、第2年度は電子線と物質の相互作用、励起キャリアの発生効率等を厳密に計算し、ダメージレス電子顕微鏡観察に求められる撮像時間を試算する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に示したとおり、初年度は、主にCsPbBr3の発光効率向上のための材料開発を計画していたが、Cs4PbBr6でCsPbBr3ナノ粒子を包み込むことで、その発光効率を15倍程度向上させることに成功した。実際に従来シンチレータとの代替による高速走査透過電子顕微鏡観察の実証には至っていないものの、電子線検出速度の向上は原理的に可能であると示唆されたため、当初の計画は達成できた。そのため、第2年度以降に実施予定であった、その場観察対象の物質の選定を前倒ししており、既に汎用電子顕微鏡で下記2つの研究テーマを対象として観察・分析している。1つ目は、アモルファス酸化亜鉛ナノシートの結晶化過程の解析を目的としたその場加熱観察である。第2年度開始時点において、筆者はアモルファス相から結晶が晶出する素過程を観察するために最低限必要な時間分解能や、加熱用ホルダーの取り扱い方等について把握している。2つ目は、酸化タングステンをナノワイヤと呼ばれる細線ナノ構造に形態制御した材料の形態観察、結晶構造評価、局所物性評価である。酸化タングステンナノワイヤを含む酸化物ナノ粒子の多くは耐電子線性に乏しく、電子顕微鏡観察中にダメージを蓄積してしまうと懸念される。初年度では、このような電子線に敏感な材料を構造解析し、さらに化学結合状態評価を行うためのダメージレス電子顕微鏡観察手法について追究しており、現状の電子顕微鏡の撮像時間やサンプルへのダメージの程度について確かめている。上記に示すように、当初の研究目的・研究実施計画に従って順調に計画を遂行しているため、現在までの研究は「おおむね順調に進展している。」と区分する。
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今後の研究の推進方策 |
初年度では、電子線照射時に高速発光するCsPbBr3ペロブスカイトの発光効率を15倍向上させる手法を確立しており、さらに、高時間分解能電子顕微鏡観察の観察対象の選定まで終了している。第2年度では、電子検出用のシンチレータの更なる高発光効率化を目指すとともに、アモルファス酸化亜鉛の結晶化過程の調査、および酸化タングステンナノワイヤの低Dose量局所構造解析、局所物性評価のための手法の確立を目指す。
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