研究課題/領域番号 |
23KJ1721
|
研究種目 |
特別研究員奨励費
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分35010:高分子化学関連
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
神澤 大志 九州大学, システム生命科学府, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,700千円 (直接経費: 2,700千円)
2025年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
|
キーワード | ポリイオンコンプレックス / 人工細胞 / 自己組織化 / 液液相分離 / 固液多相分離 / 生体分子凝縮体 / ポリペプチド / オリゴ核酸 |
研究開始時の研究の概要 |
人工細胞を膜と液相を有する細胞を模倣した階層構造と定義する。高分子の自己集合で生じる多相分離を制御し、ポリイオンコンプレックス(PIC)人工細胞を創製する。分子の自己組織化により、膜で形成される小胞内に液相を精密に配置する。この液相は生体分子を凝縮することで形成させる。親水性のPIC膜を介して外部因子をPIC人工細胞に取り込み、その因子に応答することで、液相として凝縮された生体分子を放出できるシステムを構築する。最終的には、外部因子に応答して病気の治療や診断ができる生体材料を目指す。
|
研究実績の概要 |
目的は、高分子の自己集合で生じる多相分離を制御し、ポリイオンコンプレックス(PIC)人工細胞を創製することである。そのために、合成ポリペプチドやオリゴ核酸を設計した。 現段階で、多相分離で生じるコアシェル構造(コア=高分子凝縮液相であるコアセルベート液滴、シェル=直径~2,000 nm、厚さ~200 nmのディスク)を作製できた。この階層構造は、設計した3種類のビルディングブロック(2種類の合成ポリペプチド、1種類のオリゴ核酸)を水中で混合するだけで自発的に構築される。 従来、コアセルベート液滴のみでは外部刺激に弱いことや、不規則な融合により使用形態を維持できないという課題があった。ディスクによる液滴の被覆でその課題を克服できたか確かめるために、光ピンセットを用いた。シェルを持たない液滴同士を光ピンセットで接触させると即座に融合したが、コアシェル構造同士を接触させた場合は融合は起こらなかった。さらに複数個のコアシェル構造を光ピンセットで同一箇所に集合化させた状態をつくり、光ピンセットで集合化したコアシェル構造群を一方向に押し込むと、それぞれの液滴は融合せず、もとの球状形態に戻る弾性挙動を示した。これらの結果から、ディスクによる被覆で液滴同士の不規則な融合を抑制し、液滴のみではもたなかった弾性的な挙動を獲得した。 さらにコアシェル構造を機能化するために、3種類のタンパク質を内包させた。このとき、タンパク質の種類に応じて、各タンパク質がコアとシェルに分配された。3種類のタンパク質による酵素カスケード反応を確認すると、コアシェル構造内で最終生成物を確認でき、シェルとコアを連動させたリアクターとしての機能を実証できた。 2種類の合成ポリペプチド、1種類のオリゴ核酸、3種類のタンパク質からなる人工/生体分子の多成分系から制御性のある構造、システムを構築し、PIC人工細胞の実現に近づけた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人工細胞を膜と液相を有する細胞を模倣した階層構造と定義した。PIC人工細胞は、複数種類の高分子を混合後、高分子が無秩序に集合化した過渡的な凝縮相を経て、複数の相に相分離することで形成されると考えている。この過程を制御するための高分子設計と、それら高分子を用いて得られた構造体の評価を行った。構造の評価は、光学顕微鏡や電子顕微鏡などを用いて行った。 現在までに、液相のコアと固相のシェルを有するコアシェル構造を代表に、数種類の階層構造を作製した。特にコアシェル構造は、冒頭の人工細胞で定義した膜の代わりに、固相のディスクによって液相コアを安定化できた。さらに構造全体での機能付与の可能性も探索できている。 また本研究課題で提案した、PIC膜で形成される小胞内への液相の精密配置に向けた検討も引き続き行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、コアシェル構造に関する推進方策を簡潔にまとめる。コアシェル構造は、3種類のタンパク質を同時に内包でき、それらをコアまたはシェルに分配できる。はじめに、各相へのタンパク質の分配係数や、分配の差に基づく反応効率の違いなど、定量的な解析を行う予定である。また、タンパク質の種類に応じて相選択性が生じた理由の詳細は解明できていないため、タンパク質の物理化学的特徴と、タンパク質内包前後でコアシェル構造の物性がどのように変化したかの関係を精査する予定である。得られた結果に基づくことで、より多くの種類のタンパク質やその他の物質の内包へと拡張でき、複雑な反応系を制御するシステムの構築へとつなげられる可能性がある。 次に、PIC膜で形成される小胞内への液相の精密配置に向けた推進方策をまとめる。現在、この目標達成のために、高分子の①側鎖の置換基の構造 ②置換基の修飾率 ③重合度に着目し、高分子を設計している。設計した高分子を用いた検討過程で、形成された全集合構造に占める目的の人工細胞の割合は小さいものの、小胞内に液相を有する階層構造が得られる組み合わせを見つけることができた。このような結果に基づき、上述の①~③の設計を見直し、コンポーネント間の混合比などを調整することで、PIC膜と液相が統合された人工細胞の構築を目指す。
|