研究課題/領域番号 |
23KJ1776
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分40040:水圏生命科学関連
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
西原 輝 宮崎大学, 農学工学総合研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | エドワジエラ / Edwardsiella piscicida / リゾチーム阻害 / ヒラメ |
研究開始時の研究の概要 |
有用養殖魚種であるマダイおよびヒラメにおける魚病被害は、 細胞内寄生細菌であるエドワジエラ症原因菌が多くを占めており、その対策が急務である。また、宿主細胞内において生存・増殖することのできる本菌の感染経路において、宿主細胞内防御システムから逃れるために働く詳細な回避メカニズムは不明である。そこで本研究では、本菌が魚類の生体内において病原性を発揮するメカニズムを詳細に解明するために、宿主免疫系の減弱化に関与すると考えられるリゾチーム阻害分子(Ivy)およびTIRドメイン含有タンパク質(Tcp)に着目し、生体防御回避として、特に貪食細胞を標的としたこれらの病原性因子について解析を実施する。
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研究実績の概要 |
本研究では、細胞内寄生細菌であり養殖対象魚種として重要なヒラメやマダイに甚大な被害を及ぼしているエドワジエラ症原因菌である Edwardsiella piscicida の感染経路に着目し、本菌が宿主の生体防御機構を回避するメカニズムについて明らかにし、エドワジエラ症の病因を解明することを目標とする。生体防御回避として、特に貪食細胞に対する回避メカニズムに関連した病原性因子について解析を実施した。令和5年度の実験において、ヒラメから分離された E. piscicida 由来リゾチーム阻害因子(Ivy-Ep)の特性評価を行うために、 組換えタンパク質 rIvyEp を作製した。rIvyEp を溶菌試験に供試したところ Ivy-Ep が魚種血清のリゾチーム様溶菌活性に対して阻害剤として働くことを明らかにした。また、基質濃度を変えて同様の溶菌試験を行い、ラインウィーバー=バークプロットにグラフ表示し各阻害モデルから阻害様式を判定した結果、Ivy-Ep は最大反応速度に影響を与えない競争的阻害剤に判定された。さらに、共免疫沈降の結果、rIvyEp は HEWL との結合性を示した。ヒラメ病魚から分離された E. piscicida 野生株の ivy 配列を、可動性スーサイドベクターを用いた手法で欠損させ、ivy 欠損株を作製した。作製した ivy 欠損株においてリゾチーム阻害活性が欠失していることを確認するため、ivy 欠損株培養後の菌体溶解液を用いて溶菌試験を行なった。続いて、ヒラメおよびメダカに野生株および ivy 欠損株を浸漬感染させ、その後の死亡状況を観察し生残率を算出した。浸漬感染の結果、Ivy の削除によりヒラメとメダカに対する感受性が低下したことから、E. piscicida において Ivy が宿主感染時に重要な病原性因子となることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度には、E. piscicida 由来 ivy(ivy-Ep)を同定し、既知の病原性細菌由来 ivy との比較解析を行った。また、AlphaFold2を用いて Ivy-Ep とニワトリ卵白リゾチーム(HEWL)の複合体予測を行ったところ、HEWL の活性部位に Ivy-Ep の機能性モチーフのヒスチジン残基が水素結合し、HEWL への基質の侵入を阻害するような複合体が予測された。次に、組換えタンパク質 rIvyEp を作製し、溶菌試験を行うことが出来た。溶菌試験ではIvy-Ep が魚種血清のリゾチーム様溶菌活性に対して阻害剤として働くことを明らかにし、阻害様式を判定した結果、Ivy-Ep は最大反応速度に影響を与えない競争的阻害剤に判定された。また、共免疫沈降の結果、rIvyEp は HEWL との結合性を示した。これらの成果は第23回マリンバイオテクノロジー学会大会で発表した。モデル生物であるメダカをエドワジエラ症の病因の理解に活用するために、エドワジエラ菌細菌の浸漬感染手法を確立し、エドワジエラ属細菌に対するメダカの感受性およびメダカにおけるエドワジエラ症の病状を明らかにした。この成果は、学会誌 Fish Pathology, 58(4): 175-179 (2023)に掲載された。ヒラメ病魚から分離された E. piscicida の ivy 欠損株を作製し、ヒラメおよびメダカに感染させた。感染試験の結果、Ivy の削除によりヒラメとメダカに対する感受性が低下したことから、E. piscicida において Ivy が宿主感染時に重要な病原性因子となることが示唆された。この成果は、21st EAFP Conferenceで発表した。これらの興味深い結果を学術論文および学会にて発表することが出来たため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
Toll様受容体(TLR)は、侵入してくる病原体に対する最初の免疫反応に関与する。TLRは病原体に特徴的な分子パターンを認識し、炎症において免疫細胞の生存および増殖を制御し、自然免疫応答において重要な役割を果たす宿主の免疫機構である。E. piscicidaはリゾチーム阻害分子の他に、MyD88依存性のTLR経路を選択的に阻害すると考えられているTIRドメイン含有タンパク質(Tcp)を持っていることが明らかになっているが、E. piscicida由来Tcp(TcpEp)の宿主TLR経路への関与は不明である。そこで今後の研究ではTcpEpの組換えタンパク質を精製し、プルダウンアッセイによってTcpEpとMyD88を含むTIRドメインタンパク質との結合性試験を行い、TcpEpとアダプタータンパク質の直接相互作用を明らかにする。また、Tcp-likeを組み込んだ細胞用発現ベクターをヒラメ胚由来のHINAE細胞にトランスフェクションし、TLR刺激剤添加後の炎症性サイトカイン遺伝子などの発現を解析することでTIRドメインタンパク質が関与する刺激によるサイトカイン誘導を阻害するかを明らかにすることを目指す。さらに、可動性スーサイドベクターを用いてE. piscicidaのtcp欠損変異株を作製し、野生株と比較して、宿主マクロファージにおける細胞内生存を評価し、宿主細胞内感染におけるTcpEpの病原性への関与を明らかにすることを目指す。以上の研究からエドワジエラ症原因菌が魚類の生体内において病原性を発揮するメカニズムの詳細な理解を進める。
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