研究課題/領域番号 |
23KJ1808
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分90110:生体医工学関連
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
大城 日菜子 東京都立大学, 人間健康科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
2025年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | MRI / diffusion / アクアポリン / 拡散強調画像 / 微細構造 |
研究開始時の研究の概要 |
人体の約7割は水で構成され、生命を維持するために必要であるが、体内の水分バランスを調節するアクアポリン(AQP)について、詳細な機能はわかっていない。MRI(磁気共鳴画像診断装置)は安全に身体の断面を撮像できる装置であり、撮像方法のひとつである拡散計測では水分子の移動範囲やその量を計測できる。そこで本研究では動物実験用MRIを用いてAQPに関連する操作を行なった複数のモデルマウスを拡散計測することで、AQPによる生体内の水分子調節機能の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は動物実験用9.4 T-MRIでの拡散計測を用いたAQP(アクアポリン)による水交換動態可視化技術の開発およびその機能解明を目的とする。従来の可視化技術では水分子が自由空間で拡散すると仮定されていたが、申請者が検討する拡散時間依存MRI計測では膜構造をはじめとする生体の複雑な微小構造に適合させた次世代型の定量可視化を可能とする。 本年度では、細胞に近い複数の孔サイズをもつ水分子不透過性の細孔径ファントムを撮像対象としてパルスシーケンス開発を行なった。従来の拡散計測に使用されていたSpin echoシーケンスでは、水分子拡散観測時間(拡散時間)の延長により著しい信号減衰を生じるため測定誤差が問題となっていた。そこでStimulated echo(STE)シーケンスの実装開発を行うことで信号減衰が生じることなく1000 msecまで拡散時間の延長が可能となり、100 μmの孔サイズの水分子拡散動態評価を達成することができた。さらに生体応用を見据えて、ファントム周囲に恒温水を循環させることで温度を変化させて測定し、計測値の温度依存性を評価した。さらに脳内ミクロ構造の拡散定量を可能にするには数msecの非常に短い拡散時間を設定する必要があるため、微細構造での拡散計測に特化したOscillating gradient spin echo (OGSE)シーケンスを実装開発し、シーケンスの特性評価を行なった。その成果としてOGSEシーケンスのSine波計測法では、STEシーケンスでは観測できなかった6, 12 μmの拡散特性を捉えることができた。STEシーケンスとOGSEシーケンスを組み合わせて幅広い拡散時間を設定することで、測定対象の構造サイズに適合させた制限構造内の水分子拡散動態定量法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究データを取得するための手法を確立する計画であり、ファントムを用いて拡散理論との整合性を保持しながら、実験動物への応用を見据えた測定システムの検討を行う必要があった。従来の拡散計測に使用されていたSpin echoシーケンスでは著しい信号減衰による測定誤差が問題となっていたが、Stimulated echo(STE)シーケンスの実装開発を行うことで信号減衰が生じることなく1000 msecまで拡散時間の延長が可能となり、100 μmの孔サイズの水分子拡散動態評価を達成することができた。ファントム周囲に恒温水を循環させることで温度(10℃~40℃)を変化させて測定し、計測値の温度依存性を評価し、生体応用を見据えた条件検討を行なった。また脳内ミクロ構造の拡散定量を可能にするために、微細構造での拡散計測に特化したOscillating gradient spin echo (OGSE)シーケンスを実装開発し、シーケンスの特性評価を行なった。その結果としてOGSEシーケンスのSine波計測法では、STEシーケンスでは観測できなかった6, 12 μmの拡散特性を捉えることができた。OGSEのCosine波計測法では高周波数を設定することで水分子の拡散現象内でも速い拡散に感度をもつ可能性が判明し、生体内の複雑な拡散をより選択的に観測できると考えられる。これらの成果は筆頭著者として査読付論文(H. Oshiro, Heliyon, 2024)として報告を行なった。STEシーケンスとOGSEシーケンスを組み合わせて幅広い拡散時間を設定することで、測定対象の構造サイズに適合させた制限構造内の水分子拡散動態定量法を確立した。本年度では当初の予定通り、実験動物への応用が可能な水拡散動態計測システムを作成できたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本年度に作成したシステムを利用してAQPを操作したモデルマウスの脳を計測する。哺乳類の脳内グリア細胞のアストロサイト終足にAQP4が発生しており脳のクリアランスシステムに関与していると考えられている。野生型マウス群とAQP4を特異的に阻害するTGN-020を投与したAQP4阻害マウス群の測定データを比較し、AQP4阻害による脳内水分子動態調節機能の変化および調節効率の相違を検討する。またAQP4ノックアウトマウスは際立った異常な表現系を示さないといわれている。野生群、AQP4阻害群と同様の実験条件でAQP4欠損マウスの脳を計測し、AQP4欠損モデルにおける水分子動態調節機能および調節効率について比較検討する。マウス脳計測時は麻酔薬によってAQP4の水透過性を特異的に抑制される可能性を考慮して覚醒下での計測を行う。覚醒下測定はマウスの頭蓋骨にアクリルバーを接着し、バーを固定することで体動によるブレを抑制する。 拡散MRIを用いた生体の脳におけるAQP4機能動態のダイナミック計測は行われていない。さらにマウス脳の覚醒下における拡散 MRI 計測はなされていないため、AQPと麻酔薬との関連性について新規性の高いデータが得られると考えている。
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