研究課題/領域番号 |
23KJ1838
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分45040:生態学および環境学関連
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
小林 優也 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 婚姻形態 / 古典的一妻多夫 / クマノミ / 社会構造 / 順位制 / 社会進化 |
研究開始時の研究の概要 |
古典的一妻多夫とは、異なる巣を構える複数の雄と1個体の雌が繁殖する婚姻形態である。雌雄の配偶子生産に必要な投資量の違いから、本婚姻形態は進化しにくいと考えられるため、脊椎動物の社会進化を考える上で重要な研究対象とされてきた。しかし、既知の例では生息地の関係から詳細な調査が困難であり、本婚姻形態の進化要因は分かっていない。一方、近年になって、魚類のクマノミにおいて複数雄を囲う雌の存在が観察された。そこで、サンプリングが容易であるという本種の特徴を活かし、詳細な行動観察、操作実験、そしてDNAによる血縁解析までを含めた研究を実施し、未だ不明である古典的一妻多夫の進化要因の検証を行う。
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研究実績の概要 |
古典的一妻多夫とは、1個体の雌が独立した巣を持つ複数雄と配偶する婚姻形態である。通常、配偶子生産にかかるコストが低い雄の方が複数の配偶相手を得やすくなると考えられるため、古典的一妻多夫は子育てや婚姻形態の進化を考える上で重要である。しかし、鳥類など既知の例では、繁殖地が極域であるなどの問題から詳細な調査が困難であるため、本婚姻形態の進化要因は不明なままである。本研究では、スズメダイ科魚類のクマノミを用いて古典的一妻多夫の進化要因と雌雄それぞれのコストと利益を明らかにする。 野外調査により、これまでに、雌が一妻多夫的な行動をするクマノミを23グループ発見できた。通常の一夫一妻と比べて、一妻多夫的な行動をする雌の行動圏内には多数のイソギンチャクがあり、未成熟個体の数も多かった。また、一妻多夫グループの各雄は独立した行動圏を持っており、雌はそれらを囲い込む行動圏を持っていた。しかし、繁殖をモニタリングした結果、雌は必ず同一の雄とのみ繰り返し繁殖を行っていた。また、行動観察から、非繁殖雄は卵保護や捕食者防衛など子育てに関与していなかった。従ってクマノミの雌は一妻多夫的な行動はするものの、遺伝的には一夫一妻であることが明らかになった。 このように当初の予測と反する結果が得られた一方で、興味深い事実も明らかになった。クマノミは通常、雄よりも雌が大きく、雌が死亡すると雄が性転換して雌になるが、調査地の個体群では、雌よりも雄の方が大きい場合があり、特に一妻多夫グループの繁殖雄の半数が雌より大きかった。つまり、本調査地のクマノミは、何らかの要因で順位制や性転換機構が十分に機能していないと考えられる。さらに驚くべきことに、繁殖シーズンを通じて一夫多妻で繁殖しているグループを1例発見した。次年度以降は操作実験などを通じて、これらのようなグループに働いている仕組みを明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予想とは大きく異なる結果が得られたものの、これらの発見は順位制をはじめとする動物の社会集団が維持される仕組みを理解するにあたって重要な知見である。データ量についても、各種解析を行う上で十分な量を集めることができている。本年度までに取得したデータについては解析を進めており、論文投稿に向けて準備を行っている。また、一夫多妻による繁殖の記録についてはすでに学会で発表しており、投稿原稿も準備中である。以上より、本年度は予想と異なる展開となったが、研究活動は概ね順調に進行していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、定点撮影した動画をはじめ、本年度までに取得したデータ解析を進める。野外調査も継続し、一妻多夫グループにおいて個体を除去する操作実験を実施する。具体的には、繁殖雄を除去し、非繁殖雄が地位を継承し雌と繁殖できるか明らかにする。同時に、除去の前後で定点動画撮影を行い、行動を定量化し、ネットワーク分析などを用いて個体間関係の変化を調べる。また、現在、若手研究者海外挑戦プログラムの助成を受け、パプアニューギニアにおいてニューカッスル大学のTheresa Rueger博士の受け入れの元、野外調査を実施中である。パプアニューギニアには対象種を含む複数種のクマノミ亜科魚類が生息している。調査地はイソギンチャクの生息密度が低い環境であるため、日本の個体群とは大幅に社会構造が異なると予想される。このデータを比較に用いることで、環境要因の違いがクマノミの社会構造にもたらす影響を解明できるだろう。
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