研究課題/領域番号 |
23KJ1916
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分30020:光工学および光量子科学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
河内 優太 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
2025年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 量子メモリー / フォトンエコー / 超高速非線形分光 / 非線形光学 / 量子操作 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、次世代の通信技術として単一光子の量子力学的重ね合わせ状態(量子ビット)を用いた量子通信が注目されている。量子通信には「単一光子源」「量子メモリー」「単一光子検出器」の開発が必要である。情報密度を増加させるためには単一光子パルス幅を狭める必要があるが、フェムト秒域での「量子メモリー」「検出器」は依然未開拓である。そこで、申請者は特別研究員として「不均一系+フォトンエコー法」を利用した量子メモリーと、申請者がこれまで開発してきた全光学的な「周波数上方変換単一光子検出器」を組み合わせることで、従来不可能だったフェムト秒域での超高速量子通信を可能とする量子メモリー・検出器を開発する。
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研究実績の概要 |
本研究の最終目的は、フェムト秒単一光子を量子メモリーに保存する事である。その為にはフェムト秒で作動する「単一光子源」「量子メモリー」「単一光子検出器」の開発が必須である。そこで今年度は単一光子検出器の開発・評価及び量子メモリーの実証実験を行った。 単一光子検出器においては、非線形光学結晶によるフェムト秒パルスポンプ周波数上方変換を用いる事で、測定対象信号のフェムト秒領域での時間分解測定に成功した。また、フェムト秒パルスを用いた周波数上方変換では結晶内の群遅延の影響が大きく関わる。そこで、群遅延を考慮した和周波光の伝搬方程式を作成し、実際に理論的にフェムト秒パルスの場合の非線形光学効果を導出した。その結果、セルマイヤー方程式により計算した群遅延の値を用いるのみで実験結果を精度高くシミュレーション出来る事を確認した。また、フェムト秒パルスの場合の位相整合条件を計算する事で変換効率の温度依存性も計算可能となり、こちらも実測値と良い一致を示した。 量子メモリーにおいては、これまでに作成した150層InAs自己形成量子ドットサンプルと、DBR共振器付50層InAs量子ドット集合体サンプルをメモリーとして用いた。まずは原理実証として微弱コヒーレント光の保存実験を行った。これにより、実際に約180fsのパルス保存に成功した。保存効率は約0.002%と低かったが、これは量子メモリーの不均一幅が約7THzにも及ぶことによる不均一量子制御が原因である。そこで、量子操作に用いるパルスにチャープを付与するARPという手法を導入することで、よりロバストな制御を行った。これにより、実際に保存効率が3.2倍向上した。これは従来のARP研究で用いられていた媒体の不均一幅(GHz)よりも3桁大きなものであり、これだけ広い不均一幅を持つ量子ドット集合体に対してもARPが有効である事が初めて示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究計画は量子メモリーへのtime-bin信号保存再生・及び評価とARPによる効率改善であった。実際に、これまでに作成した150層InAs自己形成量子ドットサンプルと、DBR共振器付50層InAs量子ドット集合体サンプルをメモリーとして用い、約180fsのパルス保存に成功した。また、time-bin信号を保存することで信号のコヒーレンスが保たれている事、マルチモード信号が保存可能であることが確かめられた。また、ARPという手法を導入することで、よりロバストな制御を行った。これにより、実際に保存効率が3.2倍向上した。これは従来のARP研究で用いられていた媒体の不均一幅(GHz)よりも3桁大きなものであり、これだけ広い不均一幅を持つ量子ドット集合体に対してもARPが有効である事が初めて示された。これらの成果は実際に2024年1月にアメリカで行われたSPIE PhotonicsWestと3月に行われた春期応用物理学会にて成果発表を行った。これらの内容を現在学術論文としてまとめている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は実際に単一光子保存に向けて、まず単一光子源の開発を行う。これには非線形光学結晶を用いた自発パラメトリック下方変換(SPDC)によって光子対を生成し、この片方の光子を単一光子源として用いる。用いる結晶は現在所持しているPPKTPの他に、新たにPPLNの結晶を購入し、超短単一光子パルスを生成する。まずは単一光子源の性能評価のため、同時計数測定及びこの単一光子源を用いたTime-binの位相測定を行う。Time-binのパルス間隔は数psのオーダーであると予想されるため、時間分解測定のためにこれまで開発してきたUCSPDと組み合わせる。また、実際に量子メモリーの実験系と単一光子源の接続のための実験系構築を行う。また、量子メモリーの物性評価に新たにデュアルコム光源を用いたASOPSの測定系を構築する。
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