研究課題/領域番号 |
23KJ1957
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分49050:細菌学関連
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
金子 寛 東京薬科大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
中途終了 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 強毒型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 / ΨUSA300 / USA300 / ccrB2 / 可動遺伝因子 / 皮膚科領域 |
研究開始時の研究の概要 |
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、代表的な薬剤耐性菌であり、感染対策上最も重要視されている。その中でも、強力な毒素を産生する一部のMRSAは、強毒型MRSAと呼ばれ、基礎疾患のない健康なヒトに対しても重篤な感染症を引き起こすことが知られている。 近年、本邦において強毒型MRSAの流行が急速に拡大しているが、その要因は明らかになっていない。本研究は、本邦で流行する強毒型MRSAをゲノムレベルで詳細に解析し、感染拡大に関与する因子を特定することを目的としている。本研究から得られる成果は、強毒型MRSAによる感染症の拡大防止や早期治療に応用できると考えられる。
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研究実績の概要 |
本年度は、強毒型MRSAであるΨUSA300が、遺伝子変異によりUSA300よりも高い定着能を獲得したという予想の元に、下記の研究を実施した。 2011年から2021年に本邦の皮膚科外来患者から分離された強毒型MRSAを対象として、全ゲノム配列に基づく系統樹を作成したところ、ΨUSA300がUSA300に対してサブクラスターを形成しており、ΨUSA300がUSA300から派生したクローンであることを示していた。以上の結果は、USA300が病原性・定着性に関与する因子を獲得することでΨUSA300となり、本邦において急速に蔓延したという我々の仮説と矛盾しないものであった。 続いて、ΨUSA300が獲得した因子を同定するために、USA300とΨUSA300をゲノムレベルで比較解析したところ、いくつかの相違点が新たに認められたが、これらは機能未知であり、病原性・定着性に関与する可能性があるものを絞り込むのは非常に困難であった。そこで、申請者らは、ΨUSA300が発見された要因である部位特異的リコンビナーゼccrB2の欠失に再度着目した。CcrB2は、病原性・定着性に関与する可動遺伝因子 (MGE) の挿入・脱離に関与することが報告されているが、ΨUSA300における欠失がその機能に与える影響は明らかになっていない。そこで、CcrB2の機能を評価するために、我々はMGE脱離頻度の定量手法を構築した。この定量手法を適用したところ、ΨUSA300株におけるMGE脱離頻度が、USA300株よりも1/200から1/1000程度に低下していることが明らかになった。以上の結果は、ccrB2の欠失により、CcrB2の機能が大幅に低下していることを強く示唆している。 これらの成果は、皮膚科領域における強毒型MRSAの定着メカニズムの解明につながり、その病原性の理解に大きく貢献するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、ΨUSA300およびUSA300のゲノム情報を比較解析することで、病原性・定着性に関与する未知の病原性遺伝子を複数推定する予定であった。しかし、これらの因子を絞り込むのは非常に困難であったため、既知の遺伝子である部位特異的リコンビナーゼccrB2の欠損に再度着目した。その結果、ΨUSA300が病原性・定着性に関与する変異を獲得していることが強く示唆され、当初の計画とは異なるものの、本研究目標の達成に大きく前進した。したがって、本研究課題は、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ΨUSA300とUSA300の間で脱離頻度に差異があったMGEは、黄色ブドウ球菌の皮膚定着性や薬剤耐性に関与することが既に報告されている。したがって、これらの脱離頻度の減少は、ΨUSA300の病原性・定着性に関与していることが疑われる。 現在、ccrB2の欠失とMGE脱離頻度の因果関係を明確にするために、大腸菌と黄色ブドウ球菌のシャトルベクターを用いた遺伝子組み換え手法により、野生型CcrB2を導入したΨUSA300株、および欠失型CcrB2を導入したUSA300株を作製している。 また、今後、皮膚3Dモデルを使用して、USA300とΨUSA300、および組み換え株の生存能・炎症誘発能を評価する予定である。具体的には、USA300とΨUSA300を単独、または混合して皮膚3Dモデルに感染させたのち、一定時間後に生育菌数を測定することで生存能を評価する。また、炎症マーカーを定量することで炎症誘発能を評価する。さらに、低濃度の抗菌薬存在下においても各種評価を行う。 これらの結果から、ΨUSA300の病原性・定着性に対するccrB2欠損の影響を明らかにする。
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