研究課題/領域番号 |
23KJ1960
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分47010:薬系化学および創薬科学関連
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
田中 諒子 東京理科大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 軸不斉 / E/Z異性体 / 立体構造 / 光異性化 / チオアミド / ベンゾジアゼピン / クアゼパム / ベンズアニリド |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、医薬品化合物に含まれるチオアミドの立体構造を解明し、光反応により立体化学を制御することを目指したものである。具体的には、チオアミドに存在するE,Z異性体や軸不斉異性体の物理化学的性質をNMR、X線結晶構造解析、計算化学などを用いて明らかにする。さらに、これらチオアミド誘導体を光ラセミ化反応の対象とし、不斉源をもつ光増感剤を用いたチオアミドの軸不斉制御法を開発する。この手法を低分子医薬品や活性ペプチドのコンホメーション制御に応用する。
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研究実績の概要 |
硫黄を含むチオアミドは、硫黄が酸素に置き換わったアミドに比べ物理的・化学的性質の情報が乏しく、その基礎研究の不足が医薬品構造での利用の頻度にも影響している。しかし、チオアミドには医薬品の構造で繁用されるアミドと同様に、E/Z異性体、軸不斉異性体が存在することが予想される。まず、催眠薬や抗不安薬として用いられるベンゾジアゼピン系医薬品の構造中に存在するチオアミドの物理化学的性質ついて、アミドと比較しながら明らかにした。ベンゾジアゼピン系医薬品はジアゼパムのようにほとんどがアミド構造をもつが、クアゼパムはチオアミド構造を持つ点で他のベンゾジアゼピン系医薬品と異なる。そこで、クアゼパム誘導体に潜在する軸不斉を表出させるために、9位にメチル基を導入したクアゼパム誘導体と、そのチオアミド構造をアミド構造に替えたオキソクアゼパム誘導体を合成し、その物理化学的性質、立体構造の違いを明らかにした。ベンゾジアゼピン結合部位(BZ)のうちBZ1とBZ2の両方に結合する一般的なベンゾジアゼピン系医薬品と異なり、クアゼパムは、BZ1選択的に作用する特徴を持っている。この理由を明らかにできれば、これまで問題視されてきた副作用を軽減した新たなベンゾジアゼピン系医薬品の創製にもつながる可能性がある。また現在、より基本的な構造である、チオベンズアニリド誘導体のE/Z異性、軸不斉について精査している。チオアミド構造を含有する基本的な構造を持った化合物の研究は、チオアミドの創薬への利用を推進する重要な知見を得ることにつながるだけでなく、新規の軸不斉制御法を確立し、医薬品分子の選択的合成や、E/Z異性体の異性化利用したタンパク質のコンホメーション制御につながる点で他分野へ貢献できるものと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、アミドとチオアミドの物理化学的性質を明らかにするために、チオベンズアニリド誘導体とベンゾジアゼピン系医薬品の1つであるクアゼパムの誘導体を合成した。 まず、クアゼパムの9位にメチル基を導入することで潜在する軸不斉を表出させ、室温で安定な軸不斉異性体を単離することができた。チオアミド構造を持つ9-メチルクアゼパムは、そのチオアミド構造がアミドに置き換わった9-メチルオキソクアゼパムに比べ、高い熱力学的安定性を持つことが分かった。計算化学によって予測されたそれぞれの最安定構造のN-C結合の長さを比較すると、チオアミドの方がアミドより短く、チオアミドの二重結合性の高さが軸不斉異性体の高い熱力学的安定性をもたらしていると考察した。さらに、9-メチルクアゼパムの軸不斉異性体間において片方のエナンチオマーが標的分子であるGABAA受容体に対して高い親和性を示すことが分かり、9-メチルクアゼパムの活性コンホメーションが(a1R,a2S)であることを明らかにした。軸不斉異性体の絶対配置はエナンチオマーである(+)-9-メチルクアゼパムのX線結晶構造解析により明らかにしたが、ECDの実験結果とDFT計算による計算結果がよく一致するため、計算によっても絶対配置を推定することができることも明らかにした。以上の結果をまとめて、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 誌に投稿した。 また、チオアミド構造を含むチオベンズアニリドのE/Zや軸不斉について、1H NMRやX線結晶構造解析、HPLCを用いて精査した。オルト位の置換基を換えた6種類のチオベンズアニリドを合成し、そのうち1種類は室温で単離可能な熱力学的安定性を持つことを明らかにした。この化合物は、可視光領域である425 nmの光照射により1時間でE/Z比がが逆転することも分かった。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、基本的な構造であるチオベンズアニリドのE/Z異性や軸不斉と、その光異性化反応について主に検討する。まず、チオベンズアニリドのE/Z異性化と軸不斉の異性化のエネルギー障壁を調べる。チオベンズアニリドについては、十分な熱力学的安定性を持つが、アミド構造に置き換わったベンズアニリドは、室温で安定にE/Z異性体を単離できる誘導体がない。N-C結合軸の回転を抑え、E/Z異性体が単離できないか、電子的な観点からアプローチする。具体的には、トリフルオロアセチル基を導入したベンズアニリドを合成し、熱力学的安定性が向上するか確かめる。光異性化反応については、可視光領域においてE/Z異性化反応が起こることが既に分かっている。そのため、より速い異性化を起こすために適切な光増感剤を見出す。光増感剤の検討の後、最適な光増感剤に対して不斉源を導入し、キラルな光増感剤による選択的光異性化反応の開発を目指す。キラルな光増感剤による選択的光異性化反応の研究が難航した場合は当研究室で既に検討しているリサイクルフォトリアクターによる速度論的光学分割を利用する。 さらに、確立したチオアミドの光異性化反応を触媒的不斉反応や創薬に応用する。具体的には、軸不斉を持つクアゼパム誘導体の不斉合成や、可視光を用いる温和な条件下での光反応としてチオアミドを有する生物活性ペプチドの立体化学制御へ展開する。 また、2023年度に精査したクアゼパム誘導体について、サブタイプ選択性をもたらしている構造を明らかにするため、9-メチルクアゼパムのGABAA受容体のサブタイプごとの活性試験を行う。
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