研究課題/領域番号 |
23KJ1963
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分44010:細胞生物学関連
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
明果瑠 いるま 東京理科大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | 細胞競合 / 近接細胞標識技術 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、がん研究において近年注目されている「細胞競合」に着目した課題であり、がん変異細胞と隣接する正常細胞との細胞間相互作用の実態解明を目指すものである。細胞競合とは、異なる性質の細胞が隣り合ったとき、細胞同士の相互作用によって、より適応度の高い性質の細胞が勝者として生き残り、適応度の低い細胞が敗者として細胞社会から排除される現象であるが、その詳細な分子機構については未解明な点が多い。そこで、本研究では、がん変異細胞と隣接する正常細胞のみを標識できる新規近接細胞蛍光標識技術sGRAPHICを用いて、細胞競合を惹起する正常細胞内の分子メカニズムの解析を可能とし、排除圧の本態を解明する。
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研究実績の概要 |
本研究は、がん研究において近年注目されている「細胞競合」に着目した課題であり、がん変異細胞と隣接する正常細胞との細胞間相互作用の実態解明を目指すものである。細胞競合とは、異なる性質の細胞が隣接した時、互いに生存を競い合う現象である。イヌの腎上皮由来の正常上皮細胞であるMDCK細胞を用いた研究成果により、正常上皮細胞と少数のがん変異細胞を混合培養したとき、正常細胞と変異細胞間で細胞競合が生じ、変異細胞は上皮層から排除されることが報告された(Hogan et al., Nat Cell Biol, 2009など)。さらに、細胞競合マウスモデルを作出し、腸管に少数産生されたRas変異細胞のほとんどが細胞競合により管腔へと排除されることが報告されている(Kon et al., Nat Cell Biol, 2017)。排除過程の変異細胞内では様々な性状変化が生じることが明らかにされており、我々の研究グループでは、隣接する正常細胞のfilamin集積によってRas変異細胞内でリソソームの機能が障害され、細胞内で蓄積されたオートファゴソームがさらに正常細胞のfilamin集積を誘導するポジティブフィードバックが生じ、細胞競合を正に制御することを明らかにした(Akter et al., Cell Rep., 2022)。しかしながら、変異細胞に隣接する正常細胞で生じる細胞内イベントの解析は遅れており、正常細胞が変異細胞を排除する分子機構は不明である。そこで本研究では、細胞競合を惹起する正常細胞の遺伝子発現変化を網羅的に解析し、正常細胞の排除圧の実体を明らかにすることと共に、未だ確立されていない細胞競合マーカーを同定することを目的とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RasV12変異細胞に隣接する正常細胞のみを単離・回収するために、膜アンカー型GFP-N末断片(nGRAPHIC)と分泌型GFP-C末断片(cGRAPHIC)を、イヌの正常腎上皮細胞であるMDCK細胞(nGRAPHIC細胞)と、がん変異細胞であるMDCK-RasV12変異細胞(cGRAPHIC-RasV12細胞)にそれぞれ導入した。これらの細胞を混合培養(nGRAPHIC細胞:cGRAPHIC-RasV12細胞=50:1)すると、RasV12変異細胞に隣接する正常細胞でのみGFPが再構成され、蛍光標識された。続いて、GFP陽性の正常細胞を、蛍光活性化セルソーティングを用いて単離・回収し、トランスクリプトーム解析を行うことによって細胞競合条件下の正常細胞で発現増加する遺伝子を抽出した。続いて、定量的PCRにより発現増加を確認した後、Fluorescence in situ hybridization (FISH)にてこれらの分子の発現変化を観察した。細胞競合特異的に発現増加が認められた分子に関して、培養細胞を用いて免疫染色を行い、がん変異細胞が産生されたときの発現変化を検討した。現在、細胞競合マウスでも免疫染色を行い、がん変異細胞が産生されたときの発現変化を検討し、候補遺伝子の機能的重要性を評価するために、ゲノム編集技術により、培養細胞で活性を阻害した際の細胞競合能への影響を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、蛍光蛋白をタグづけして作成したキメラ候補分子を正常細胞に導入後、がん変異細胞と共培養する。これにより、細胞競合を惹起した正常細胞内での挙動を、リアルタイムイメージング解析によりモニタリングする。以上の操作により、細胞競合を引き起こすマスターレギュレーターとその分子機構を同定する。また、マウスモデルと、ヒトの正常もしくは初期がん検体を用い、マーカーとしての有用性を検討し、細胞競合マーカーを確立する。さらに、細胞競合マーカーの発現量を定量することにより、ヒト組織での細胞競合の発生頻度を評価する予定である。
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