9世紀から10世紀にかけてアラビア語圏で成立したジャービル文書は錬金術書群と目されるが、そこには錬金術に留まらない学知が記録されている。本研究では、人がどのように事物を認識するかを問う「知性論」、存在物の在り方を物的要因と理念的要因の二原理で説明しようと試みる「質料形相論」、性質の強弱を量として把握しようとする「質の量化論」、そして、あらゆるものを数に還元しようとする「バランス理論」の4つを軸に、写本校訂も行いながらジャービル文書を分析する。これにより、ジャービル文書はアラビア語圏における古代ギリシア思想の受容状況を物語り、かつ科学史と哲学史研究の両方に資する文献であることが示される。
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