研究課題/領域番号 |
23KJ1989
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
小林 理正 法政大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
中途終了 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 狭衣物語 / 源氏物語 / 竹取物語 / 伝本研究 / 本文研究 / 解釈 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は『狭衣物語』の伝本と本文を平安文学の享受史という観点から再調査し、写本の実際に即した本文研究、従来とは異なる本文対校表の作成をつうじて本文の分類区分を再検証するものである。 近年の平安文学研究は、伝本の系統と本文の性格を同質であると見做すきらいがある。だが、伝本TがA系統に分類されるからといって、その本文も全てA系統のものである保証は、どこにもない。伝本間の位置づけをいう枠組み「系統」と本文の性格が必ずしも一致しない場合も当然ある。こうした認識の違いゆえ、本文理解が不充分な平安文学があると予測される。 本研究では『狭衣物語』本文の再検証をつうじ、平安文学の本文を改めて考究していく。
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研究実績の概要 |
本年度は、以下に掲げる3点の検討・研究に取り組んだ。 【①】定家の書写本が伝わる物語、本年では『源氏物語』を取りあげ、その本文研究の再整理と、本文の分析および読解。 【②】定家の書写本が残らない物語、本年では『竹取物語』『浜松中納言物語』『狭衣物語』『とりかへばや』『住吉物語』を取りあげ、その本文研究の再整理と、主要伝本の再調査。 【③】『狭衣物語』諸本の再調査と、作品読解。 ①では、河内本『源氏物語』の本文調査をつうじて見えてきた若紫巻「あきのゆふべは」とある表現上の狙いを論じた「『源氏物語』若紫巻「あきのゆふべは」再考」(「解釈」69巻、2023年12月)という研究成果を得た。②では、架蔵『竹取物語』断簡が江戸時代の流布本(版本)の写しでないことから、当該資料の略書誌と原本画像の報告およびその本文の分析と全文翻刻を企図し、研究資料として広く紹介した(「『竹取物語』断簡(一軸)の紹介と翻刻」(「詞林」74号、2023年10月)。なお、『竹取物語』諸本の多くは版本の写しであるが、架蔵断簡はそうなってはいないことから、本文研究上わずかなりとも益するところがあると思われ、資料紹介を行ったものである。③では、『狭衣物語』巻四の作中歌、その中でも読解上の不審を抱える歌を取りあげ、その解釈整定を試みる研究発表(「『狭衣物語』(巻四)作中歌・再読―詠み手の解釈/受け手の解釈―」第323回大阪大学古代中世文学研究会 2023年6月24日)を行った。また、③では、いまなおよく分かっていない巻四の本文状況を考えるうえで、重要となると思われる宇和島伊達文化保存会蔵本(+内閣文庫本)および為秀本に注目し、その実見調査(書誌)と本文調査(残存巻)を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各項目、それぞれの進度は異なるものの、いくつかの気づきと、研究成果を得ることができた。定家本(あるいは権威付けられた伝本)を有している作品と、これを有しない作品との間で現存本文のヴァリエーション幅のあることが、各作品の再調査から改めて知られた。とはいえ、本文の揺れ幅が小さいからといって、現存本文に問題がないということにはならないから、より微視的な観点からの本文吟味が必要となってこよう。この点、次年度の研究のスタート地点とも重なるところがある。 平安文学と一言でいっても、前期~後期にかけての物語がいくつか残っている。前期・後期の物語の中には、鎌倉写本がない(またはごく僅か)ものと、鎌倉写本をいくつも伝えているものとがある。こうした伝存状況の違いについては、いまだ充分な考察ができていない。けれども、鎌倉写本が残るものと、そうでないものという分け方から平安文学の本文を見やることで浮かびあがるものもあると予測される。 本年の研究は、次年度以降の研究の基礎調査に位置づけられるものであるが、そうした中でも一定の研究成果を挙げることができた点および如上のような気づきを得た点からも、その研究進捗はおおむね順調に進展しているものと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後、定家本を有しない作品を主に取りあげ、その伝本研究と本文分析が如何なる視点からなされてきたのか、池田文献学が何を、どこまで明らかにしたのか、または明らかにできなかったのかを、たとえば『伊勢物語』や『源氏物語』研究と比較し、そこから浮かびあがってくる問題を検討する。そのさい、基準となる伝本の扱われ方について注目し、それ以外の伝本と本文が如何に位置づけられていくのかを確認する。たとえば『狭衣物語』研究では、深川本を基準とし、検討されてきたが、その結果、深川本の本文を構成する本文群が異文として処理され、後発のものと考えられるようなことがあった。こうした事態が『狭衣物語』以外の物語でも確認されるのか、されないのかといった点に留意しつつ、各種作品の本文を吟味していく。 また、2023年度の研究中、大規模異文を基準とする系統弁別と、微細な異同から系統分類が行われる作品のあることが気にかかった。ほとんど本文が動かないにもかかわらず、いくつかの系統に現存本が分けられている作品もあるが、そうした作品の研究方法と、『狭衣物語』のような大規模な異なりが確認される作品の研究方法をぶつけることで見えてくる分析視座や本文観を押さえていく必要があるようにも思われる。そこで次年度では、定家本を有しない作品の中から『とりかへばや』に特に注目し、その本文揺動と系統弁別についても確認していく所存である。 こうした研究計画の変更は、同時代写本群の検討のほかに、本文それじたいの規模にも注意した分析視点が、今後の研究には必要になる可能性が高いと判断されるための措置である。
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