研究課題/領域番号 |
23KJ1998
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分06010:政治学関連
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
佐藤 駿丞 明治大学, 政治経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
700千円 (直接経費: 700千円)
2024年度: 300千円 (直接経費: 300千円)
2023年度: 400千円 (直接経費: 400千円)
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キーワード | 最高裁判所 / 裁判官選任 / 日本弁護士連合会 / 司法政治 / 質的比較分析 |
研究開始時の研究の概要 |
最高裁裁判官の選任に関する慣行を内閣が無視する条件を明らかにすることで、最高裁裁判官選任の実態を解明する。最高裁裁判官の選任に際して、最高裁や日本弁護士連合会といった最高裁裁判官の出身母体が意見を述べ、候補者を推薦する慣行がある。最高裁発足から現在まで189人の最高裁裁判官が就任しているが、出身母体の意見や推薦が尊重されなかったことがあったと報告されたことがある。しかし,どのような条件の下で,出身母体の意見や推薦が無視されるのかは網羅的に明らかにされていない。本研究はその条件および組み合わせを、質的比較分析(QCA)を用いて明らかにする。
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研究実績の概要 |
最高裁裁判官の選任における出身母体の意見・推薦が拒否された事例を明らかにするために文献の渉猟を進め,これまでの研究で明らかにした各最高裁裁判官の任命過程に加えて,新たな事実をいくつか明らかにした。その結果を踏まえ,出身母体による意見・推薦慣行が確立した1963年から2022年までの間に任命されたのべ167人の最高裁裁判官の中で,出身母体の意見・推薦が内閣によって拒否された事例は何件あったのか,またその傾向や理由についての考察を2023年9月17日の日本政治学会2023年度研究大会において報告した。この期間において,のべ14件で出身母体の意見・推薦が無視されていた。出身母体の意見・推薦が無視された理由としては,経歴,年齢,小法廷構成とその他の理由が確認された。これらの中には裁判を円滑に行うためや法曹内の年功序列を維持するための実質的な理由として妥当性が高いものと,内閣による拒否のための単なる方便であった可能性が高いものが含まれる。 QCAの習得を進め,そのパイロットテストとして,第25回国民審査の分析を行った。2021年10月31日の第25回国民審査では,2021年6月23日の「夫婦の姓」に関する大法廷決定で夫婦同姓を強制する民法の規定を合憲とした裁判官は同規定を違憲とした裁判官よりも罷免要求率が高かったと指摘される。これを検証するために,夫婦の姓訴訟での憲法判断,一票の格差訴訟での憲法判断,告示順を条件とし,罷免要求率を結果としてQCAを行った。その結果,現行法を合憲とした裁判官は罷免要求率が高く,現行法を違憲とした裁判官,または両方の訴訟に不参加の裁判官は罷免要求率が低い,という解を得た。これをより詳細に分析するために都道府県別の国民審査結果と選択的夫婦別姓に関する意識調査結果を用いて計量分析を行い,2023年10月31日の明治大学政経学会第32回大会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最高裁裁判官の選任における出身母体の意見・推薦が拒否された事例を明らかにするために文献の渉猟を進めた。司法関係雑誌や政治家関係史料を収集し最高裁裁判官の選任に関する記述を探した。その結果,これまでの研究で明らかにした各最高裁裁判官の任命過程に加えて,新たな事実がいくつか明らかになった。ここまでの成果の一部を学会報告によって発表した。これを基に,全ての期間における出身母体の意見・推薦が拒否された事例についての考察を英語で論文にまとめた。 並行して,いくつかのテキストや先行研究を用いてQCAの習得を進めた。QCAのパイロットテストとして,第25回国民審査の分析を行った。QCAの基礎的な考え方とソフトウェア(fs/QCA, TOSMANA, RのQCAパッケージ)の使い方を習得できたため,内閣が最高裁裁判官候補者を拒否する条件を質的比較分析(QCA)によって明らかにするために,候補者の推薦主体,出身分野枠,候補者の経歴,候補者の年齢,候補者の数,小法廷構成,内閣支持率,時期のデータを収集し,候補者別と事例別のデータセットの作成を進めた。実際に任命されていない候補者に関するデータは想定していたよりも見つけることが難しく,全てのデータはまだ揃っていない。事例別データのうち,推薦主体,出身分野枠,小法廷構成,内閣支持率,時期の各条件を2値に変換し,推薦拒否を結果として真理表を作成したが,矛盾のある配置構成となり,有用な分析結果はまだ得られていない。
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今後の研究の推進方策 |
1947年の最高裁発足から現在までの期間において,最高裁裁判官の選任における出身母体の意見・推薦が拒否された事例について,その傾向や理由についての考察を含めた論文を英語で執筆中である。この論文は完成し次第,国際学術誌に投稿する。また,引き続き未渉猟の文献を探すとともに,関係者へのインタビューを行い,事例の記述をより正確にしていく。加えて,2023年10月31日の明治大学政経学会第32回大会で報告した第25回国民審査結果と最高裁裁判官の憲法判断に関する研究のデータとモデルを見直して再度分析したものを2024年5月の日本法社会学会2024年学術大会で報告する予定である。そして,最高裁裁判官選任の事例に関する詳細な知識を基に,質的比較分析(QCA)で用いるデータを収集し,内閣が最高裁裁判官候補者を拒否する条件のデータセットを作成する。部分的にデータが揃った各段階でデータを2値にキャリブレートし,真理表を作成する。矛盾のある真理表になった場合は,キャリブレーションの方法を見直したり,条件を取捨選択したりしながら,矛盾を解消していき,分析に必要な全ての条件を含む完璧な真理表を完成させることを目指す。まずはこの2値の条件によるクリスプセットQCA(csQCA)を行い,内閣が最高裁裁判官候補者を拒否する際の必要条件と十分条件を明らかにする。ここまでの成果を2024年7月の明治大学政治制度研究センター第27回定例研究会で報告する予定である。また,同成果を論文でも発表する。csQCAが成功したら,データを0から1までの連続変数か偶数個の離散変数にキャリブレートし,ファジィセットQCA(fsQCA)を試みる。
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