研究課題/領域番号 |
23KJ2014
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分01040:思想史関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
福井 祐生 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | ロシア・コスミズム / スラヴ派と西欧派 / ニコライ・フョードロフ / レフ・カルサーヴィン / 信仰する理性 / 科学と宗教 / 宗教的寛容 / 死の問題 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、ロシア宇宙主義(コスミズム)と呼ばれる、19世紀後半から20世紀前半にかけてのロシア思想史上の一潮流の起源とその生成の解明を目指すものである。19世紀前半のロシア・ロマン派(V. オドエフスキー)、スラヴ派(I. キレエフスキー、ホミャコーフ)、正教的文化の議論(ゴーゴリ、ブーハレフ)に注目し、コスミズムの「ロシア性」の起源を探る。これらのロシアの独自性の意識と、コスミズムの普遍主義的意識との繋がりを考察する。これを通じて、ロシア・コスミズムの「ロシア性」を再考することで、コスミズムを「ロシア的理念」という範疇から解放し、その思想的意義を同時代の世界思想史の中で明らかにする。
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研究実績の概要 |
2023年度は、ロシア・コスミズムに先行する、19世紀ロシア思想史の「スラヴ派」とその周辺に注目して、国内外において資料を渉猟した。またヨーロッパにおける研究コミュニティの開拓、既存・新規の研究成果の発表を行った。 ロシア思想史における《科学と宗教》の問題においては、初期スラヴ派思想における「信仰する理性」という理念が、コスミズムまで含めて、ロシア思想による当該問題の理解の前提を与えているのではないかという仮説の下、この理念を形成した初期スラヴ派のイワン・キレーエフスキーに注目して研究を進めた。 2024年1月には、早大露文会秋季講演会に登壇する機会を得て、ピョートル・チャアダーエフ、イワン・キレーエフスキー、ニコライ・フョードロフにおける《信仰と理性》の問題を概説する講演を行った。また2024年3月には、ヴィリニュス市で開催された「レフ・カルサーヴィン:リトアニアにおけるロシア人哲学者の道」において、カルサーヴィンとフョードロフの《死の問題》を比較考察する発表を行った。これを通じて、国外の研究者との協力体制を促進することができた。さらに、フィンランド国立図書館でスラヴ派の《宗教的寛容》の理念に関する研究調査を行った。その成果を同月末の宗教哲学会学術大会で発表し、スラヴ派における《信仰と理性》の関係が、西方キリスト教におけるそれとのあいだで微妙なずれを有していることなどの貴重な意見を得ることができた。 また博士課程における既存の研究成果についても、『エイコーン:東方キリスト教研究』への投稿論文、コスミズムに関する研究学会であるフョードロフ国際研究学会(オンライン参加)での発表を通じて、その公表に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度には、査読論文、書評の執筆、国内外における研究発表を通じて、多くの成果を残すことができた。とりわけビリニュスにおける研究発表を通じて、ヨーロッパやアメリカの研究者たちとの知己を得ることができたことは、ロシアとウクライナの戦争が継続する中で非常に大きな意義を有しているだろう。 またロシア思想史における「科学と宗教」の問題の根底に、「信仰する理性」という理念が存在していることを認識することができた。ロシア・コスミズムに関するこれまでの研究では、ミハイル・ロモノーソフに遡る自然科学的潮流と19世紀スラヴ派に遡る宗教哲学的潮流が平行して語られてきた。しかしスラヴ派の「信仰する理性」を発見したことで、19世紀ロシア宗教哲学それ自体の中に、《信仰と理性》、あるいは《科学と宗教》の統合的理解を促進するような宗教哲学的理念が存在することに気付くことができた。 その一方で、この「信仰する理性」という理念が非常に広範な背景を有しており、この理念を十分に理解することに至ってはいない。第一に、シェリングを中心とするドイツ観念論哲学との関係で、スラヴ派における信仰と理性の問題を検討しなければならない。第二に、同時代のオカルティズムとの対応関係についても検討する必要がある。第三に、19世紀ロシアの翻訳事業によって復権した東方教父の著作からの影響を検討する必要がある。 また「信仰する理性」の理解に集中する一方、同概念とロシア・コスミズムとの結び付け、また進化論史などの各論に取り組むことができていない点は、やはり当初の研究予定からの逸脱でもある。 こうした点を踏まえると、順調な進展ではあるが、本研究はまだ道半ばと言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については、まずスラヴ派の「信仰する理性」の理念を十分に理解することから始めたい。ロシア・コスミズム研究の枠組みからこの理念を検討することで、コスミズムにおける科学と宗教の統合に関する理解を改めることができるからである。さらに、この理念がドイツ観念論からの影響を受けて成立していることを加味すれば、ヨーロッパ哲学史の中でロシア哲学史を考えるというより大きな目標にも寄与することが予想されるためである。 その中でも、ドイツ観念論を中心とするヨーロッパ哲学との交わりに重点を置いて研究してゆきたい。東方キリスト教思想からの継続性についてはこれまでも多く指摘されているのだが、思想史の共時的考察は十分に進んでいないためである。シェリング、ステフェンス、バーダーらの思想との関係で、信仰と理性に関するスラヴ派の理解がどのように位置づけられるのかという点は今後の大きな課題であると考えている。 それゆえに、スラヴ派の中でもドイツ観念論などヨーロッパ哲学の知見がとりわけ豊富なイワン・キレーエフスキーに今後も注目してゆく。また、ヘンリク・ステフェンスやフランツ・フォン・バーダーといったあまり注目されていない哲学者たちにも目を向けながら、ドイツ観念論それ自体も自分なりに理解してゆきたい。 以上の研究を通じて、ロシア・コスミズムの思想的基盤を世界哲学的に理解することにより、ロシアの国民的思想として閉鎖的に定義されないかたちで、同潮流を理解することに努めてゆきたい。
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