研究課題/領域番号 |
23KJ2054
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分01060:美術史関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
清水 紀枝 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 真言密教 / 善如龍王 / 善女龍王 / 龍神信仰 / 宋版法華経 / 法華経 / 高野山 / 醍醐寺 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は中世真言密教における龍の図像に注目し、その展開の具体的な様相や背景にある信仰の実態を追究するとともに、龍を表現した美術が真言密教の発展において担った機能を明らかにしようとするものである。特に、(1)真言密教における龍神信仰の本源とされる、善如龍王のイメージの展開および信仰の実態、(2)中世に成立した修法「三尊合行法」に関わる双龍の図像の起源と思想的背景、(3)「摩尼宝珠曼荼羅」に表された双龍の図像の起源、および密教儀礼における「摩尼宝珠曼荼羅」の機能、といった問題の解明に取り組むとともに、中世の龍神信仰に関わる僧・寺院のネットワークについても、美術史学の視点から新たな知見を提示したい。
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研究実績の概要 |
今年度は、真言密教における龍神信仰の本源とされる善如龍王に注目し、中世におけるイメージの変容とその背景、および図像の起源を追究した。善如龍王の初出史料(10世紀頃成立『御遺告』)において、その姿は約8寸の金色の蛇と説かれ、平安時代から江戸時代にかけて成立した空海の伝記類は総じて、この蛇形の善如龍王のイメージを踏襲している。ところが高野山金剛峯寺や醍醐寺には、中国風の冠を戴く男神形の善如龍王の画像が伝来し、いずれも12世紀から13世紀頃の作とみられている。近年、特に歴史学や文学の分野において善如龍王信仰への注目が高まり、研究の蓄積が進む一方で、そのイメージが中世において蛇形から男神形へと変容した背景、およびその図像の起源については明らかにされてこなかった。 なお男神形の善如龍王像の着衣の形式については、従来、宋画の影響が指摘されてきたが、管見の限り具体的な影響内容や典拠に踏み込んだ研究は見受けられず、その特異な形式の冠についても、「王冠」や「宝冠」といった抽象的な表現にとどめられてきた。そこで中国古代服飾史研究の最新の成果や中国古代史料をもとに、まずは冠の図像の起源を追究した結果、宋代皇帝の冠形式の影響を受けていることが明らかとなった。 さらに近年、中国人研究者によって、冠を戴く男神形の龍王像の成立に関するいくつかの有意義な論考が提出されている。これらの中国語論文をもとに、関係する美術作例および文献史料を精査した結果、特に宋版法華経に表された龍王像が、男神形の善如龍王像のイメージに影響を与えた可能性を見出した。男神形の善如龍王像が描かれた高野山および醍醐寺について、近年、法華経信仰との密接な関わりが注目されている。両寺院における法華経信仰の高まりが、新たな龍王イメージの成立に大きく影響を与えたものと推察している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
善如龍王の図像の起源に関する本格的な研究がなされてこなかった中、手探りの状態からの出発であったが、特に冠の図像の起源に着目し、また中国人研究者の最新の研究成果に目を向けたことで、解決の方向を見出すことができた。新たな龍王像が成立した背景に、法華経信仰が密接に関わっていた可能性を提示することとなったが、近年、特に歴史学の分野において中世真言密教と法華経信仰の関わりが注目されており、この問題について美術史学の視点から新たな知見を提供することができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
中世真言密教の龍神信仰に関わる図像として、向かい合う双龍の図像にも注目しており、今後は関係作例の現地調査を行い、その起源および思想的背景の解明に取り組むとともに、男神形の善如龍王像が成立した背景との影響関係について追究してゆく。
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