研究課題/領域番号 |
23KJ2081
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
庄野 真由 同志社大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
2024年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | モデル細胞 / 水/水ミクロ相分離 / 自己組織化 / 高分子水溶液 / ATPS(水性二相分配) / 自律的配列構造 / Cahn-Hilliard方程式 / 相分離simulation |
研究開始時の研究の概要 |
細胞内は、マイクロメートルの小さな空間にDNAやタンパク質など多種多様な生体高分子が混在する高分子混雑環境であり、これら生体高分子の相互作用によって細胞内の秩序や機能は自律的に形成されている。本研究では、生体内に近い高分子混雑環境下で細胞同様の構造や機能が自己創生する細胞モデル実験系を構築し、細胞内の自律的な秩序形成の本質に迫ることを目指す。
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研究実績の概要 |
高分子溶液が引き起こす水/水ミクロ相分離現象により生じるミクロ液滴とガラス細管を組み合わせた実験に理論計算を援用し、生物が自律的に形態形成を行うメカニズムに迫ることを目指し、3つの研究を行った。 ①PEG/ゼラチン混合溶液を、化学的修飾を施した細管に充填し温度を下げると相分離とゼラチンのゲル化が起こり、細管内で均一サイズのミクロゲルが形成されることがわかった。DNAを添加した場合、DNAを内包した細胞に似た構造のミクロゲルが自発的に創生すること、サイズや形を維持したまま細管からバルク水中に取り出せることを明らかにした。更に、ゲルの融点以上の温度であっても、DNAを内包した液滴同士は融合が抑制されることを見出した。カーン・ヒリアード型のモデルに細管内壁の化学修飾の影響を考慮した境界条件を導入した理論計算により、相分離構造を再現した。(M. Shono, et al., Small、Frontispieceに選出) ②DNA内包液滴同士は融合が抑制されることについて、界面のドナン電位とゼータ電位の測定結果から、負に帯電したDNA内包液滴同士の静電反発により融合が抑制されていることを見出した。(M. Shono, et al., Chem. Lett.) ③3成分の高分子溶液(PEG/DEX/ゼラチン)を、化学的修飾を施した細管内で相分離させると、PEG相中にDEX液滴とゼラチン液滴が交互に配列した構造が自発的に生成し、少なくとも8時間安定であることを見出した。カーン・ヒリアード方程式を用いた理論計算により、相分離構造を再現した。非平衡閉鎖系でミクロスケールの規則構造が安定に形成する現象は、生命やその他の自然現象でも起こっている可能性がある。(M. Shono, et al., ACS Macro Letters、Supplementary Cover Artに選出)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
生体内に近い高分子混雑環境下で細胞同様の構造や機能が自己創生する細胞モデル実験系を構築し、細胞内の自律的な秩序形成の本質に迫ることを目指し、研究を展開してきた。 本年度は当初計画の、サイズの揃った細胞サイズのミクロゲル液滴が自己創生する実験系の構築に成功した。ガラス細管を活用することにより、DNAを自発的に内包した均一サイズのゼラチンミクロゲルが生じ、サイズや形を維持したままバルク水中に取り出せること、ゲルの融点以上の温度であってもDNA内包液滴同士の融合は抑制されることを見出した。カーン・ヒリアード型のモデルに細管内壁の化学修飾の影響を考慮した境界条件を導入することにより、相分離構造を理論計算でも再現することに成功した。本手法は、細胞モデルの創生手法としての発展と、有機溶媒、界面活性剤などを必要としないため、食品、医薬品、化粧品などに使われるミクロゲルの製造法への応用も期待できる。 上記の発見に加え、当初の想定を上回る下記2つの成果も得られた。 1.DNAを取り込んだ液滴同士は融合が抑制されること、互いの液滴は静電反発により融合が抑制されていることを電位測定から明らかにした。その結果から、細胞内に高濃度に存在する負電荷の生体高分子が、細胞の安定化に貢献している可能性が示唆される。 2.3成分高分子溶液の相分離により、PEG相中にDEX液滴とゼラチン液滴が交互に配列した相分離構造が自発的に生成し、長時間安定することを明らかにした。さらに、カーン・ヒリアード方程式を用いた理論計算により、相分離構造を再現した。特徴的な相分離構造は、Turingパターンのような熱力学的開放系ではなく、熱力学的閉鎖系で生じている。閉鎖系で時間的に安定なミクロスケールの規則構造が生じる現象は、生命やその他の自然現象でも起こっている可能性があり、今後に繋がる結果を得られた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で得られた、均一サイズの液滴を創生する実験技術などの知見を応用し、多様なタンパク質を自発的に取り込んだ細胞モデルの創生に向けて研究を進める。また、引き続きタンパク質発現に最適な高分子の条件などの探索を進め、高効率にタンパク質が発現する細胞モデルの創出を目指す。さらに、実験と理論計算の両面から、水/水ミクロ相分離現象によって細胞に似た構造のミクロ液滴が自己創生するメカニズムの解明を目指す。
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