研究課題/領域番号 |
23KJ2093
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
桂 悠介 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | インターセクショナリティ / マイクロアグレッション / 協働オートエスノグラフィー / ムスリム / ミックスルーツ / ジェンダー / 共生 / 批判的実在論 |
研究開始時の研究の概要 |
日本社会で育ったムスリム第2世代の日常、学校や大学、就職活動、職場などにおける経験に焦点を当てる。その多くがミックスルーツであるムスリム第2世代はエスニシティやジェンダー、信仰や個々人の環境などの重なる複雑な状況の中、しばしば他者化され偏見やマイクロアグレッションにさらされる。以下の研究・調査により具体的にどのような日常的・制度的問題があり、それらがどのような構造やメカニズムに由来しているのかを明らかにする。 ・批判的実在論、インターセクショナリティ、マイクロアグレッション、方法論に関する文献研究 ・東京と大阪でのフォーカス・グループ、インタビュー、協同オートエスノグラフィーによる調査
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研究実績の概要 |
本年度は以下の研究と調査を行い、成果を口頭および論文にて発表した。 (1)理論研究:インターセクショナリティに関して、当事者の経験をもたらす社会的属性の相互構成性をいかに捉えるかという課題に対して、創発概念に可能性がある事が明らかとなった。マイクロアグレッションについては、個々人の経験を社会構造との関りの中で捉えることや、ミクロなレベルからの非当事者による介入の必要性が明確化された。また、そうした介入を促進するものとして、他者の構造的抑圧に対する認知的共感を「構造的共感」と概念化した。 (2)方法論研究:「構造的共感」を明示する方法として、研究者間や当事者との対話や共同執筆を通して行う協同オートエスノグラフィーの可能性を提示した。また、学術的、科学的方法論としてのオートエスノグラフィーの意義を明確化するために、C.Sパースのアブダクション概念に着目し、既存の理論や言説では捉えられない驚くべき出来事自体をデータみなし、分析対象とする「アブダクティブ・オートエスノグラフィー」を独自の手法として提起した。 (3)調査と発表:インタビュー調査および協同オートエスノグラフィーにより、ミックスルーツ、ムスリム二世、女性という交差する当事者性に向けられるマイクロアグレッションの経験を詳述した。ミックスルーツとしては名前や外見に対して主に初対面の場面で、ムスリムとしては食事や服装など人間関係の構築に際して、女性としては学校や職場での能力の評価という点で抑圧が生じ、「危険な交差点」といいうるインターセクショナルな状況が創発する過程を論じた。これにより、被抑圧的経験を個人の責任に還元せずに、非当事者による相互作用、組織、社会制度レベルの介入の必要性を提示した。また、様々な当事者と研究を進めるための基礎的な論点を整理し、今後の課題を明確化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた理論的、方法論的研究およびインタビュー調査、協同オートエスノグラフィーの執筆については順調に実施することができているため。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針として、引き続き理論的研究や方法論的検討を行うとともに、フォーカスグループ調査を本格化する。 (1)理論研究:これまでの欧米諸国や東アジアなどにおけるイスラームフォビア研究と関連付ける。インターセクショナリティ論と批判的実在論を接続する文献研究の精読を通して、構築主義的観点では捉えられない社会構造の創発性や因果的な力を明らかにするための議論の土台を整備する。また、これらの議論を調査を通した経験的研究と総合して、共生理論として発展させる。 (2)方法論的検討:これまでの研究で、インタビュー調査と協同オートエスノグラフィーを併用する際に、著者性や匿名性の観点で両研究手法の間で齟齬が生じることが課題として浮き彫りになっている。これらの点は倫理性とも密接につながっているため、国外の文献を含めて検討する。 (3)調査の実施:初年度は基礎部分の文献調査を主に行ったため、フォーカスグループとその結果に基づくインタビュー調査については本格的に実施できなかった。今後の研究としては、これまでの研究で明らかになった、初対面、人間関係構築、学校や職場の際のマイクロアグレッションの経験をフォーカスグループにより、集合的、多声的に捉える。その際、外見や名前、信仰実践に加え、ジェンダー、国籍、個々人のおかれる独自の状況の違いにも着目し、当事者間の経験を比較する。これにより、当事者の被抑圧的な経験を生じさせる構造の実在性をより明確に捉え、社会的な支援や介入の具体的な内実を検討する。 これらを通して、当事者にとっての見えづらい被抑圧的経験やその蓄積を単に個人の問題に還元することなく、社会問題として捉える理論的、経験的根拠を提示し、共生のための取り組みを促進していく。
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