研究課題/領域番号 |
23KJ2117
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分11010:代数学関連
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
毛利 健太 関西学院大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
2024年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 有限グラフ / 凸多面体 / トーリック環 / 圧搾性 / Gorenstei性 / 反射的多面体 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、可換環論、離散幾何学、グラフ理論を同時に駆使することによってPMS多面体、カット多面体、安定集合多面体などの格子凸多面体(全ての頂点が格子点であるような凸多面体)に付随するトーリック環と呼ばれる半群環や、その定義イデアルであるトーリックイデアルと呼ばれる二項式イデアルに関する諸問題の解決を目指す。特に、PMS多面体のトーリック環の正規性やGorenstein性の完全な特徴付けを目指す。
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研究実績の概要 |
今年度は、perfectly matchable subgraph多面体(以下PMS多面体)に付随するトーリック環について、可換環論的に重要な性質に関してまとめた論文「Toric rings of perfectly matchable subgraph polytopes」が出版されたほか、join graphに関するsymmetric edge polytopeのファセットの個数に関する共著論文「Number of symmetric edge polytopes of join graphs」を執筆した。 単著論文「Toric rings of perfectly matchable subgraph polytopes」内の結果は二つある。一つ目は圧搾性についての結果である。論文では圧搾性を持つPMS多面体を生起するようなグラフの完全な特徴付けを得た。二つ目の結果はGorenstein性についての結果である。Gorenstein性に関してはpseudotreeに対してPMS多面体のトーリック環がGorensteinとなる特徴付けを得た。 また、symmetric edge polytopeのファセットの数に関する共著論文「Number of symmetric edge polytopes of join graphs」では予想「次元dのreflexive polytopeのファセットの数は高々6^{d/2}個となる」がjoinグラフのsymmetric edge polytopeで正しいことを示した。symmetric edge polytopeは任意のグラフに対してreflexiveであることからGorensteinファノトーリック多様体と一致することが知られており、盛んに研究されている多面体である。この論文は三人共著での執筆となったが、一人の研究者として議論に加わることはもちろんのこと、この多面体の計算実験においてグラフを入力することで対応したsymmetric edge polytopeの行列を出力するコードを制作することで理論を担保するなどといった貢献も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
単著論文「Toric rings of perfectly matchable subgraph polytopes」ではPMS多面体について可換環論的に重要な性質である圧搾性とGorenstein性についてグラフの特徴付けが得られた。有限グラフの隣接しない k 辺の組をマッチングといい、グラフのすべての頂点を使うマッチングをパーフェクトマッチングという。有限グラフの頂点集合の部分集合 S による誘導部分グラフがパーフェクトマッチングを持つとき、「S は perfectly matchable な部分グラフを誘導する」という。有限グラフの PMS 多面体はperfectly matchable な部分グラフを誘導するような S に対応した (0, 1) ベクトルをとり、それらすべての凸閉包をとったものである。この多面体はBalas Pulleyblankによって多面体的組み合わせ論や最適化の視点で定義され、特にバススケジュール問題に対して有効であることが記載されていたが可換環論的性質は手付かずの状態であった。多面体が圧搾性を持つ時、その多面体のトーリック環の定義イデアルであるトーリックイデアルのイニシャルイデアルが平方自由な単項式で生成されることが知られており、統計や最適化の分野でも重要とされている。また有限グラフのpseudotreeに対して、Gorenstein性の結果が得られているがこちらも可換環論的に重要な性質である。論文では二部グラフから生起されるPMS多面体がGorenstein性を持つような多面体の特徴づけも得られた。これらの二つの性質を持つPMS多面体を生起する有限グラフの完全な特徴づけが得られたことでPMS多面体のトーリック環の解析は大きく進んだと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まずはカット多面体の正規性について予想「カット多面体のトーリック環が正規であることとグラフが5頂点のマイナーをとして持たないことが同値」を研究する。カット多面体のトーリック環については、バイナリーグラフモデルと呼ばれる統計モデルへの応用の発見を契機とし、トーリックイデアルの 2 次生成性などの環論的性質がグラフの言葉で完全に特徴付けられている。しかし、2次式から成るグレブナー基底の存在など完全な特徴付けが知られていない重要な性質も多い。離散幾何学的側面からの研究と比較すると、可換環論的考察、特に、トーリックイデアルの生成系に関する研究が進展しておらず、懸案の課題である。本研究では、鍵となる予想「辺の削除により、トーリックイデアルの生成系の次数は増加しない」を考察する。研究が進展しない場合、イデアルの低次多項式のグラフ理論的特徴付けを目指し、低次多項式で生成される場合について証明を試みる。 また、PMS多面体について二次生成性を考察する。二部グラフから生起されるPMS多面体は交差マトロイドの基底多面体と同型であることがPMS多面体を定義した論文で記載されている。マトロイドの基底多面体の二次生成性は40年間未解決の問題であり、交差マトロイドは二次生成性が証明されているマトロイドの一つである。非二部グラフの中でもかなり広いクラスにおいてもPMS多面体が二次生成となることが独自の計算実験により観測されている。PMS多面体の二次生成性を交差マトロイドの二次生成性の一般化として位置づけるとともに、マトロイド予想に対するフィードバックも目標とする。またPMS多面体の正規性について部分多面体である辺凸多面体との関連が発見されており、その詳細を明らかにしたいと考えている。
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