研究課題/領域番号 |
23KK0102
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(海外連携研究)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分35:高分子、有機材料およびその関連分野
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
渡邉 正義 横浜国立大学, 先端科学高等研究院, 名誉教授 (60158657)
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研究分担者 |
近藤 慎司 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 非常勤講師 (20984058)
上野 和英 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (30637377)
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研究期間 (年度) |
2023-09-08 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
15,600千円 (直接経費: 12,000千円、間接経費: 3,600千円)
2025年度: 6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2024年度: 6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | ソフトマター電解質 / エネルギー貯蔵 / 蓄電池 / イオン液体 / ポリマー電解質 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究で取り上げるソフトマター電解質は、有機電解液、無機固体電解質のギャップを補完する物質群として注目されている。これらソフトマター電解質は、薄膜大面積への成型が容易、さらにソフトマターとしての硬さと弾性が制御可能などの特長を有する。本研究では、電解質(イオン液体含む)に高分子を相溶化させたpolymer-in-salt型、および同様にポリイオン液体を相溶化させたpoly(ionic liquid)-in-salt型のソフトマター電解質に注目し、申請者グループおよび海外研究者グループがこれまでに培ってきた独自性、研究手法を融合させ、若手研究者の養成を図りつつ、将来に繋がる国際共同研究を行う。
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研究実績の概要 |
再生可能エネルギーの利用を最大限にするために、エネルギーを効率良く生成・貯蔵・消費することの重要性がクローズアップされ、これを支える学問領域であるイオニクスの重要性が増している。特に、従来の水系および有機系電解液の電気化学安定性、安全性、環境負荷の問題を打破する物質群として本研究では、「ソフトマター電解質」に焦点を当て検討を行っている。申請者らおよび海外共同研究者らは、このソフトマター電解質およびこれを用いたエネルギー貯蔵・変換系の研究を続けて来ており、本国際共同研究を通じて、国際的に活躍できる若手研究者を養成するとともに、本分野の中長期的な国際的ネットワークを構築することを目指している。研究対象とするポリマー電解質では、高イオン伝導発現の妨げとなっている高分子鎖のセグメント運動とのカップリング輸送による限界を打破するため、イオン液体を高分子と相溶させることで得られるpolymer-in-salt電解質を構築し、イオン輸送がセグメント運動からデカップリングすることを示してきた。海外研究グループは近年、イオン液体型高分子を高濃度のリチウム塩と相溶させたpoly(ionic liquid)s-in-saltが比較的高いイオン伝導性を有する事を報告している。本研究では、polymer-in-salt電解質およびpoly(ionic liquid)s-in-salt電解質中の配位環境とそのイオン輸送の相関性を明確にする事で、高イオン伝導性を実現する設計手法の確立を進めている。本年度は、リチウム塩濃度変化に伴う系中のイオン輸送と構造緩和時間を広帯域誘電分光測定とレオロジー測定から実験的に見積った。また、系中の配位環境に関しては、参画している若手研究分担者が海外研究グループに加わり、分子動力学シミュレーションを実施した。計算科学的に得られた配位情報からイオン輸送との相関性を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画通り、様々なpolymer-in-salt型、poly(ionic liquid)-in-salt型電解質を調製し、「高分子-アルカリ金属塩の構造・組成比」と「イオン輸送特性」との関係性を詳しく調査した。中でも、極めて高いLi塩濃度を有するpolymer-in-salt電解質において高いLiイオン輸率(>0.95)を実証した。poly(ionic liquid)-in-salt型電解質について、リチウム塩濃度変化に伴う系中のイオン輸送と構造緩和時間を実験的に見積もった結果、リチウム塩濃度の増大に伴い、イオン伝導緩和が構造緩和よりの速くなる、即ちデカップリング輸送が進行するが、さらに高いリチウム塩濃度ではその比率が1に近づくカップリング輸送が観測された。海外研究グループと連携し、分子動力学シミュレーションから、リチウム塩濃度増大に伴い、アニオンがリチウムイオン及びポリカチオンに配位する共配位構造が形成し、その比率が最も高い濃度域で顕著なデカップリング輸送を発現する事を明らかにした。更に高濃度域ではアニオンがリチウムイオンのみに配位したMolten-salt領域の拡大が観測され、リチウム塩自体のガラス転移温度(Tg)にカップリングする事が分かった。実際に、異なるリチウム塩の混合による塩のTg低下が、超高濃度域におけるイオン伝導率の増加と相関したこともこの結果を支持した。リチウム塩の組成が極めて高くなると、イオン輸送は系の構造緩和にカップリングするが、最適リチウム塩組成において、比較的高いイオン伝導性を発現するのに加え、高いリチウムイオン輸率を示し、リチウム金属二次電池の試験において優れたサイクル特性を有する事を示した。これらの成果は、研究代表者と海外研究グループの国際共著論文草稿として纏める段階まで進んでおり、初年度の研究進捗として当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、様々なアニオンを用いたLi塩と高分子の複合系を研究対象として広げ、分子動力学シミュレーションを主軸とした高イオン伝導電解質の探索を行う。中でもLewis塩基性の異なる複数のアニオン種を系中に混在させる事で配位環境が変化し、イオン拡散挙動が異なる結果を既に示している。これらを海外グループと連携しながら実験的・計算科学的に実証する事で、ポリマー電解質のイオン伝導の限界を打破する新たな設計手法の提案を目指す。また、これら得られた新規ソフトマター電解質のLi金属電池への適用可能性を実証するため、金属電極界面の安定化、可逆性の増大と実用レベルに近いプロトタイプセルの構築・特性評価を進める。電極/電解質界面の分析、電池の充放電特性評価、劣化機構解明には従来から研究代表者のグループで行ってきた電気化学測定に加え、海外研究グループと連携し、詳細な界面分析と特性解析を実施する。
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