研究課題/領域番号 |
23KK0144
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(海外連携研究)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分50:腫瘍学およびその関連分野
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
日野原 邦彦 名古屋大学, 医学系研究科, 特任准教授 (50549467)
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研究分担者 |
加藤 真一郎 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (40751417)
山口 純矢 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (70936591)
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研究期間 (年度) |
2023-09-08 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
21,060千円 (直接経費: 16,200千円、間接経費: 4,860千円)
2025年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
2024年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
2023年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
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キーワード | パーシスター / がん薬剤耐性 / DNAバーコード / 細胞運命追跡 / がん / 薬剤耐性 / パーシスター細胞 / 運命決定機構 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題では、がんが薬剤投与という環境変動に対してどのような適応進化プロセスを経るのかに関して、特にエピゲノムを起点とした細胞運命決定機構に着目し、パーシスター細胞がどのように生み出され、残存し、その後の再増殖へと至るのかという学術的問いに迫る。本国際共同研究の推進により、がん薬剤耐性化の源泉であるパーシスター細胞の運命決定プログラムを司る分子機構を解明し、パーシスター細胞を標的とした革新的がん治療法の開発基盤となる基礎研究成果を創出する。
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研究実績の概要 |
本年度は、海外共同研究者よりパーシスター様薬剤耐性化モデルとして提供を受けた複数のメラノーマ細胞株を発現DNAバーコード化し、薬剤耐性化過程をエピゲノムレベルで追跡する実験モデルの構築を行った。発現DNAバーコードライブラリをレンチウイルスによりMOI=0.1にて対象の細胞株へと感染させることで、個々の細胞が異なるバーコードを有するプール細胞株を樹立した。これらの細胞株を用いて、BRAF阻害剤耐性化過程を追跡する条件検討を進めた。BRAF阻害剤投与前にバーコード化細胞株にドキシサイクリン誘導性のH2B-mCherryを発現させ、ドキシサイクリン非存在下でBRAF阻害剤投与を行い、細胞増殖能に応じて減弱するmCherryレベルを指標に休眠細胞(mCherry-high)と高増殖性細胞(mCherry-low)をFACSにより単離した。これらと親株のDNAからバーコード領域をPCR増幅して次世代シーケンスに供し、海外共同研究機関に赴き海外共同研究者と共にバルクバーコードデータの解析を行った。その結果、解析したうちの一つの細胞株では、BRAF阻害剤の長期投与後に出現するmCherry-lowの薬剤耐性コロニーで数種類のバーコードが高頻度に濃縮しており、さらに興味深いことにmCherry-highの休眠細胞も同種のバーコードを保持することがわかった。以上の知見は、薬剤耐性コロニーが休眠細胞から出現していることを示唆するものであるため、来年度以降でさらに詳細な解析を進めていく予定としている。今後、他の細胞株も同様にバルクバーコード解析を進め、シングルセルレベルでの解析に向けた条件検討を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に沿って、海外共同研究機関から提供された複数の細胞株を用い、発現DNAバーコードライブラリにより標識したバーコード化細胞プールを樹立することができた。発現DNAバーコードライブラリの感染細胞はmNeonを発現するため、当初はmNeonを指標に感染細胞の選別を行っていたが、mNeonの発現が非常に弱くうまく選別できていないことがわかった。そこで、本ライブラリに搭載されているもう一つの蛍光色素mCherryを選別前にドキシサイクリン誘導性に発現させ、その後mCherryとmNeonのダブルポジティブ細胞を選別することで高効率にバーコード化細胞を単離することが可能となった。バーコード化した細胞株を対象としてバーコード追跡実験をバルクレベルにて実施し、海外共同研究機関現地にて海外共同研究者の技術指導のもと、一つの細胞株についてデータ解析を終えた。得られた結果はパーシスター様の薬剤耐性化過程を示唆するものであったため、来年度以降に1細胞マルチオーム解析を用いてさらに詳細な研究を進めるにあたり、休眠化する細胞と再増殖する細胞がどの様なエピゲノム・トランスクリプトームの特徴を持つのかを明らかにする実験の準備が整ったと言える。今後他の細胞株のバルクバーコード解析についても順次進めていくことで、細胞株間の類似性または差異を調べる環境を整えることができた。以上のように、当初の研究計画はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、バーコード化した全ての細胞株についてBRAF阻害剤投与前後におけるバーコード組成の変化をバルクレベルで解析し、複数のメラノーマ細胞株がそれぞれどのようにBRAF阻害剤耐性を獲得しているのかを明らかにする。薬剤耐性化がパーシスター様の形式であるか否かを調べるため、バーコード解析に加えて休眠細胞(mCherry-high)と高増殖性細胞(mCherry-low)の薬剤応答性をin vitroで検証する。mCherryレベルを指標に細胞増殖を停止した休眠細胞(パーシスター細胞)を単離し、その後再度BRAF阻害剤を投与することで、休眠細胞から薬剤耐性コロニーが生まれるかを検討する。また、休眠細胞は薬剤感受性が損なわれているため、この薬剤寛容性が一過性のものであるかどうかに関して休薬期間を設けて観察する。以上の実験からパーシスター様薬剤耐性化モデルとして適当と考えられた細胞株を対象とし、シングルセルレベルでの解析に向けた条件検討、特にパーシスター細胞からの運命転換を捉えることのできるタイムポイントを明らかにするため、BRAF阻害剤投与過程における時系列バルクバーコード解析を進めていく予定である。薬剤耐性コロニーが休眠細胞から出現してくる時点を割り出し、その前後のサンプルを用いて海外共同研究者と共にシングルセルマルチオーム解析を実施する。1細胞遺伝子発現データから同時に得られる発現バーコード情報から各細胞の系統情報を紐付け、マルチオームデータとの統合的解析からパーシスターの発生・休眠・再増殖に関わる運命決定機構を解明する。さらに、運命決定に関わる因子のうち酵素等のdruggabilityの高い因子に関してはその詳細な機能解析を行い、パーシスター細胞を標的とした新規治療法の開発を目指す。
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