研究概要 |
本研究は,自己治癒能力を引き出し,体内で自己細胞が入り込み自己組織化が期待できる再生促進型無細胞化腱を独自の組織無細胞化技術を駆使して開発するものである.実用化を目指した総合的基礎研究の中で,コア技術として,力学的特性の維持を実現する組織の保存・滅菌法が未解決課題であった.無細胞化組織を凍結乾燥して滅菌し,手術場で生理食塩水で再水和して使用するコンセプトで研究を推進している.初年度は,水との結合に着目して組織前処理法について詳細に検討し,凍結乾燥してエチレンオキサイドガス滅菌すると変化してしまう組織の粘弾性特性を未処理組織と同等に保持できる組織前処理条件を確立した(国際特許出願).また,我々が開発した非臨床超急性免疫反応評価法を駆使し,無細胞化処理して滅菌処理したウシ由来心膜に対するヒト血液の超急性免疫反応を,臨床で使用されており安全性が確認されているグルタールアルデヒド溶液で処理されたウシ心のう膜パッチ製品,及び,ポジティブコントロールとして未処理ウシ心膜を抗生物質で洗浄した組織と比較評価した.実験前に再水和させた無細胞化及び滅菌済みウシ由来心膜と共培養した血液のラクトフェリン濃度は,グルタールアルデヒド固定処理されたウシ心のう膜パッチと同程度であった.C3a濃度も同様の結果となり,補体活性が抑制されることを定量的に示すことができた.さらにsC5b-9濃度は,グルタールアルデヒド処理されたウシ心のう膜製品と比較して,無細胞化処理して滅菌したウシ心膜の方が活性が抑制されることが判明した.合わせて,本実験系で,未処理組織はいずれの指標も顕著に上昇することを確認した.無細胞化処理後に確立した方法で前処理し,凍結乾燥してエチレンオキサイドガス滅菌したウシ腱を用い,第一例目の大動物前十字靭帯再建術をヒツジで実施し,6ヶ月間問題なく機能することを実証できた.
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